今の日本経済は悪化の一途を辿り、その一因には高齢者がお金を「使わない」ことがあります。詐欺被害にあう高齢者の被害額は数百万円だったり数千万円だったり、「よくそんなに貯めているな」と感心さえしてしまいます。
しかし高齢者がお金を貯めているのには今の政治・経済の先行き不安が強く関係しています。高齢者はお金を「使わない」のではなく、実は「使えない」のです。
高齢者の貯蓄額は他の世代の4倍
週刊ダイヤモンドの調査によると、
日本の個人金融資産は1500兆円、うち6割の900兆円を60歳以上の世帯が占めている
という結果が出ました。60歳世帯の平均貯蓄は2000万円以上、他の世代の約4倍の貯蓄を持っています。今までずっと働いてきたからいま働いている世代に比べて貯蓄額が高いのは当然の結果かもしれませんが、4倍の差に驚く人は多いのではないでしょうか。
「お金の流通量を増やして循環させること」が景気回復の手段のひとつです。つまり高齢者がその貯蓄を使えばこの悪化の一途をたどる日本経済は改善させるのです。しかし経済の悪化が老後の不安を煽るため高齢者はさらにお金を使わなくなる、お金の流れは滞る一方です。
高齢者が貯めたお金はどうなるのかと言えば、さらに増えてやがて本人は亡くなり平均3000万円の遺産となってしまうのです。なぜそんなにしてまでお金を貯めるのか?老後の生活費として必要だという思いもありますが、何よりも強いのは手元にお金が無いと怖いという不安です。それは戦後の貧しい時代で育ってきた苦労が根幹にあります。
安心したいから、備えを重視
内閣府が発表した平成26年版高齢社会白書によると、60歳以上の高齢者の約7割が現在の暮らしに「心配ない」と回答しています。「そんなに貯蓄があれば遊んで暮らせるでしょう」と若い世代は思ってしまいますが、高齢者に貯蓄の目的を問うと、
- 「病気・介護の備え」 62.3%
- 「生活維持」 20.0%
- 「豊かな生活・趣味」 わずか4%
です。不安が先立ってしまうため「備える」「貯める」を重視し、結果としてお金を「使えない」のです。
全世帯の9割が生命保険に加入している日本人は、78%のアメリカや40%のイギリスなど他の先進国の人たちに比べ備えを重視する傾向があります。
生命保険に関しては年間保険料の平均は45.4万円、平均所得のなんと8%を占めます。地震保険を筆頭に損害保険の加入率は年々増加し、万が一に備えるために毎年安くない保険料を日本人は払い続けているのです。
お金を使える人になるには?
因果性のジレンマを表す言葉として「鶏が先か、卵が先か」という表現があります。政治・経済が不安だからお金が使えない高齢者とお金が回らず回復しないため悪化する経済、まさに今の経済はこの状態で、「景気回復が先か、高齢者がお金を使うのが先か」です。
前述した通り、景気を回復させるひとつの方法はお金の流通量を増やすことです。例えば子どもに10,000円あげると、備えという意識が無い子どもはその10,000円をすぐに使ってしまいます。子どもによってお金は流通するのです。
さて同じことを高齢者にすると、備えの意識が強い高齢者は貯蓄してしまい、お金は流通しないのです。
国の政策ではよく高齢者にお金を渡しますが、お金は使える人に渡す必要があるのです。国がやることは高齢者がお金を使える環境を整えることです。
多少力技ではありますが、現在の銀行の超低金利はお金を「使わせる」方法です。未だ安定を求める人は金利が悪くても預金しますが、徐々に金融商品を買って投資する、つまりお金を「使える」人が増えてきました。
これからはお金を使える人をもっと増やす必要があります。そうして徐々にでも景気回復すれば、高齢者がお金を使えるようになるのです。
高齢者なりの経済を支える役割がある
いま高齢化社会が政治でも経済でも問題視されていますが、高齢者は昔から高齢者ではなく、10年、20年、30年経てば今の若者も高齢者になります。そのとき問題視される高齢者になるかならないか、それはこれからの生き方によります。
お金の使い方にも学習と経験が必要です。今の高齢者は今の日本を作るのが仕事でした。これから高齢者になる人たちは経済を安定もしくは向上させることが必要です。役割が違うので今までと同じこと、今までと同じお金の使い方や貯め方を私たちはしてはいけません。
どんな高齢者になるか選択肢があるうちに生き方を選択することです。投資を始めとした資産運用について学ぶこともその選択のひとつです。
(文/高橋亮)