遺産相続が発生する場合、その遺産額や相続される人の人数によって、相続税が必要となります。
財産の相続は普段あまり馴染みのない相続税の計算が必要となるため、計算が複雑だと感じる人もいらっしゃいます。
しかし、相続税の計算は、順を追って計算していけば、それほど難しい計算ではありません。もしも相続をすることになった場合に、ある程度の知識があれば慌てなくて済みますので、しっかりと計算法をマスターしておきましょう。
この記事では、相続税の計算方法を、初めての人でも理解できるように分かりやすく解説します。
【この記事の目次】
相続税がかかる財産ってなに?
そもそものお話からしたいと思います。相続税がかかる財産は、全ての資産が対象となります。不動産も動産も全てが相続財産なのです。
ただし、個人に専属する権利は財産とはみなされません。たとえば年金などは個人に専属する権利であるため、相続をすることで身内が年金の受給を引き継ぐことはできません。それ以外は全て相続財産とみなされます。
では、相続財産が一体いくらぐらいの金額なのかはどうやって評価するのでしょうか?実はその基準も明確に決まっています。
ここでは相続税の計算の中で一般的にあげられている不動産、金融資産、取引のない株式を例に見て行きましょう。
不動産の評価基準
不動産価格の評価基準は、土地や建物の状況によって異なります。難しい用語が出てくるので覚えなくていいですが、明確な基準があるということだけつかんでいただければと思います。
不動産の評価は宅地の場合は路線価方式という評価基準と、倍率方式という評価基準を取っています。路線価方式は宅地が面している路線の価格を基準として、そこから宅地の面積や形などを計算して評価する方法です。
もう1つの倍率方式は、固定資産評価額に国税局長が定めた倍率をかけて計算する評価方法です。
一般的に土地価格の計算は路線価を利用する人が多いようですが、地方などの郊外は路線価が定められていないケースが多く、こういった場合に固定資産税評価額を利用して算出しています。
金融資産の評価基準
金融資産の評価の場合はどのように行うのでしょうか?
たとえば金融資産を現金で持っている場合には、その現金の金額分を相続税の計算式に適用すれば簡単にはじき出すことができます。しかし、金融資産は現金だけとは限りません。
生命保険や上場株式の場合もあります。これらの場合にはどうやって評価するのでしょうか?
実は、生命保険や上場株式の場合も厳密な決まりがあります。まず生命保険の場合は、解約返戻金かそれに相当する額が評価額となっています。そのため比較的簡単に税金の計算ができます。
一方、上場株式の場合は多少複雑です。なぜなら以下の4つのパターンの中で最も低い額が評価額となると決まっているからです。
《上場株式の評価額のパターン》
- 課税のタイミングでの終値
- 課税のタイミングが属する月の毎日の終値の平均額
- 課税のタイミングが属する月の前月の毎日の終値の平均額
- 課税のタイミングが属する月の前々月の毎日の終値の平均額
株式は値動きがあるため、金額そのものではなく、評価するタイミングが重要視されています。
取引していない株式の評価額
株式は全て取引があって値動きしているという印象を持っている人が多いようですが、実はそんなことはありません。上場していない場合には金額が分からず、評価が難しいのです。
そこで、2つの方法で評価しています。1つは事業内容が似ている上場株式と比較しての評価、もう1つは1株あたりの純資産価格を株価とする方法です。
基本的にはこの2つの方法が一般的ですが、場合によっては過去の配当実績を参考に評価するケースもあるようです。
これらを基本として、従業員数や経営権を持っている株式保有者数など、さまざまな条件が加味されることで計算も変わりますが、どのケースにしてもきっちりとした基準で計算が行われていることは間違いないでしょう。
相続税を計算してみよう
相続税の計算を実際に行ってみましょう。相続税の計算は3つのステップを踏むことで計算することができます。
《相続税の計算の3つのステップ》
- ステップ1.相続税が課税される遺産総額を計算
- ステップ2.相続税の合計額を計算
- ステップ3.相続人の各人ごとの税額を計算
たった3つのステップで相続税の計算は完了です。ここではご主人が1億4,800万円という財産額を残して亡くなり、相続人が配偶者と娘2人ので計算したいと思います。
ステップ1.相続税が課税される遺産総額を計算
最初は相続税が課税される財産総額がどれくらいあるのかを計算します。
ただし、最初に気を付けなければならないことは、全ての財産に相続税がかかるわけではなく、一定の控除額が定められています。
具体的にいうと、「3,000万円+法定相続人の人数×600万円」は相続税の計算から省いて計算しても良いですよと決まっており、このことを基礎控除といいます。
これを踏まえて計算すると、配偶者と娘2人の場合
3,000万円+3×600万円=4,800万円
が基礎控除額となりますので、遺産総額である1億4,800万円のうち、4,800万円までが税金の計算対象とはならないので、残りの1億円で相続税を計算することとなります。
また、「私は相続を放棄します」という人がいた場合も、計算は相続した場合で計算するので、相続放棄人がいても4,800万円が控除されますので知っておきましょう。
ステップ2.相続税の合計額を計算
ステップ2では、相続税の合計額を計算します。民法では法定相続という財産分与の割合が定められています。でも、実際には法定相続の割合で相続されるとは限りません。
「お姉ちゃんはお父さんといっしょに暮していたから多めにもらってね」とか「お母さんは介護して大変だったから割合増やしていいよ」などと、身内の相談で決めることもできます。
しかし、相続税の計算自体は法定相続通りの計算と仮定して行う決まりがあります。今回の場合、法定相続どおりに分配すると、1億円のうち配偶者が5,000万円、娘2人はそれぞれ2,500万円ずつとなります。
この5,000万円や2,500万円に一定の割合(下記参照)をかけて相続税がの合計額が計算されます。
《相続税率》
課税価格1,000万円以下 | 10%(税率) | 控除なし |
課税価格3,000万円以下 | 15%(税率) | 50万円の控除 |
課税価格5,000万円以下 | 20%(税率) | 200万円の控除 |
配偶者は5,000万円×20%(税率)-200万円(控除)=800万円(相続税額)となり、娘2人はそれぞれ2,500万円×15%(税率)-50万円(控除)=325万円(相続税額)となります。
つまり、相続税の合計は800万円+325万円+325万円=1,450万円となります。
ステップ3.相続人の各人ごとの税額を計算
ここまでの計算で、相続税の合計が分かりましたが、今度はこれを配偶者の娘2人で分けて支払わなくてはなりません。
仮に法定相続のとおりに相続した場合にはどういう計算になるのでしょうか?
法定相続では、配偶者が2分の1、娘2人は4分の1ずつ相続すると決められています。相続税の支払いも、これと同じ割合で申告することとなります。
相続税の合計である1,450万円をこの比率で分けると、配偶者は725万円、娘は362万5,000円ずつとなり、これがそれぞれ支払うべき相続税の金額となります。
ただし、実は今回のケースは配偶者には相続税はかかりません。なぜかというと、配偶者は1億6,000万円の配偶者控除があるからです。そのため、よっぽどの相続財産がない限り、配偶者が相続税を納める機会は少ないようです。
このこともあわせて知っておきましょう。
まとめ
相続財産は、亡くなった人に専属する権利以外の全ての財産をいい、動産、不動産にかかわらず、相続税の評価の対象となります。
相続税がいくらか計算するには大きく分けると3つのステップがあり、3つのステップの順番通り計算すると、簡単に相続税の額を計算することが可能です。
ただ、配偶者は1億6,000万円までは配偶者控除の対象となるので、よっぽど大きな相続財産でないかぎり、配偶者が相続税を払うことはありません。
これらの基本を知っているだけで、いざという時にも役に立つかと思います。
(文/田中英哉)