子供の頃、近所に「大きくなったら賞金稼ぎになりたい」しか言わない友達がいた。
恐らくドラマやら映画で、かっこいい賞金稼ぎを目にして憧れたんだろう。
あれからもう四半世紀以上経つ。
果たして彼は、その後無事に賞金稼ぎになれたのか。気がかりで毎晩2時間も眠れないでいる。
今、フィリピンが銃弾と刃物で溢れる!
さて、その友達のことを考えると、最近の、とある時事問題のことも想起してしまう。
そうだ。フィリピンの内情だ。
今年に入ってかの国では、ドゥテルテ大統領による新政権が発足。
公約にあった治安の改善を実現するための一手として、とんでもない事態を引き起こした。
なんと政権発足から1ヶ月の間に、麻薬関連の犯罪者400人~500人を射殺したというのだ。
この所業には、さすがに麻薬犯罪者も恐れをなしたようで、50万人以上が全国の警察署に出頭したという。どれだけ麻薬がはびこっていたのか。この出頭者数を見て戦慄してしまった。
そして今、事態は新たな局面を迎えている。
自首、出頭をせず逃亡する犯罪者に対して、警察は射殺も躊躇しないという状態なのだ。
さらには民間人までもが、賞金首を狙って襲撃を行っている。
何故こうなったのかと言えば、当然これもドゥテルテ大統領の鶴の一声のせいだ。
国民が自分を信任していると確信をする大統領は、警察組織による麻薬犯罪者の殺害の容認と、これらの犯罪者を捕縛、射殺した際の報奨金などにも言及しているのである。
報道では全国各地に、民間の結成した自警団が発足したこと。
そしてこの自警団によって麻薬犯罪者が多数襲撃され、1,000人以上が殺害されたことなどが報じられている。
まさに混沌!1人殺せば最大1000万円!
報道されている部分はおおよそここまでだが、一部の媒体によると、このいざこざの中で、民間人も犠牲になっているという。
恐らく麻薬犯罪者と誤認されて殺害されてしまったりだとか、民間人が報奨金目当てに犯罪者を襲撃するも失敗に終わって殺されるというケースもあるのかもしれない。
襲撃の巻き添えで5歳の女の子が殺害されてしまった事例をはじめとして、既に大勢の、本来無関係な市民が命を落としているという。
ここまでの混沌情勢を産み出してしまったのはドゥテルテ大統領にそもそもの責任があるが、報奨金目当てに容易に殺人を決意するという時点で、フィリピンという国の本質的な貧しさは見えてくる。
ところで、下世話な話ではあるが、気になるのは麻薬犯罪者を殺害した場合の賞金額である。
警察が麻薬犯罪者を殺した場合、下は日本円で100,000円、大物クラスともなると、10,000,000円だというから、こりゃもうスピード違反なんか見張ってる場合じゃないだろう。
一般人の場合はそれよりも少ない報酬だと思われるが、それでも一攫千金のためなら、人殺しもやむをえないと考える人々は確かにいるのだから恐ろしい。
犯罪撲滅はできても、これでは国が滅ぶ
新政権発足から、一気に血なまぐさい国になりつつあるフィリピン。
割と近い距離にある日本にとっては、そのうち対岸の火事だと笑っていられない事態になりそうな気がしないでもない。
海の向こう、飛行機でほんの数時間の距離にこんな修羅の国があるなんて……。
国連との関係も急速に悪化しているドゥテルテ政権。
行き過ぎた自己主張が、国際社会でどういう反応を受けるのか。
そもそも人道的な立ち位置から見ると、国民に殺人を奨励するというのはあんまりな話である。
今のような状況を維持したまま、長期政権ともなってしまえば、フィリピンという国はいずれ、世界的に見ても警戒しなければならない国ともなりかねない。
そうならないように、どこかギリギリのラインを、早い段階で決めておくべきだったんだけど、ちょっともう手遅れか……。
(文/松本ミゾレ 写真/Akhenaton Images / Shutterstock.com)