突然だが、人間は初心を忘れてはいけないと思う。常に新鮮な物ごとに対峙し、学び、吸収することもたしかに大事だけど、やっぱり生き方の基本はおざなりにしてはいけない。
そう、今でこそ僕は物書きとして自活しているが、それより以前には、アルバイトで生計を立てていたものだ。初心、忘るるべからず。そこで今回は、僕が以前勤務していた、アダルトビデオレンタル店に1日だけ復帰してみた話を書いていきたいと思う。
相変わらず過酷な労働にクソ時給
このレンタル店、周囲には大手がひしめいている中、細々とローカルチェーンとして存続中の隠れた強豪。その強みは、大手ではカバーしきれないほどの多岐に渡るジャンルのエロDVDが満載された在庫。もう、その量と言ったら尋常ではなく、1日に100本以上入荷する日が、週に何度もあるほどだ。
しかし大手ほど作業が効率化されていないため、商品登録からDVDタイトルのPOS入力に至るまで、全部手作業。手打ちでパソコンに情報を押し込んでいくのである。僕はこの店で5年近く働いていたんだけど、必然、そういうことを毎日やっているとタイピングもめちゃんこ早くなる。
僕は同業者の中でも、恐らく随一の高速タイピングの使い手だが、その素養はこうして磨かれたものだ。そんな大恩あるエロDVD屋さんだが、その時給は驚きの700円。20年前の水準である。まあ1日復帰するぐらいなら我慢しよう。復帰交渉もすぐにOKが出た。
別に喧嘩して辞めたわけでもないし、人手が足りないので即決であった。5年前、深夜帯で勤務していた僕。今回も深夜2時から翌10時までのシフトに入ることにした。さすがに深夜は時給がアップするが、それでも900円。1,000円を切っている。
ええ〜、まだそんなことしてんのかよ!
しかし復帰した日にちが悪かった。この日は幾つかのビッグタイトルのレンタルリリースを控えた爆借り前夜祭。必然、アナログで商品の入荷をしていくこの店では、夜番がヒィヒィ言いながらパソコンを独占している。しかもそのタイピングはたどたどしい。たまらず僕が交代し、この夜番には商品ラベルの準備を任せた(商品ラベルも手書き!)。
この店、平均売上は平日で大体300,000円。セール中は夢のミリオンを達成することもある人気店なんだけど、この日も深夜の売上計算の際には、やっぱり320,000円ぐらい売り上げていた。
そして売上は、簿記の「簿」の字も知らないような素人が、電卓を何度も打ち込みながらチマチマと計算し、「あれ?合わない」とか「店長、誤差が3,000円なんですが」とか言っている。マジでいつまでも言っている。夜番は2時には帰るはずなのに、この売上計算係、結局このような作業を4時までやっていた。
僕は日商簿記1級を持っているので交代してやりたかったし、実際売上計算は5年前まで深夜番の仕事だったから勝手も分かるんだけど、一応今は外様だということで止められた。くそ、俺なら誤差3,000円が発生したら、延滞金の遅延があるお客に電話してちょっとふっかけて、すぐに誤差ゼロにできるのに……(嘘です)。
自分の体のなまりを自覚
さて、僕の住むこの新潟。3月初旬の夜明け前の長さったらない。6時前ぐらいまでは外も真っ暗だし、お客もまばら。店長と2人きりになった店内で、昔話に花も咲く。しかし気になるのは、昔よりもハードワークなんじゃないかと思えるほど、日々の仕事量が多くなっていたことだ。
その昔、僕が深夜番だった頃には、勝手に有線を「日本の民謡チャンネル」にして、ヘラヘラしながら紙飛行機を作って遊んでいたんだけどこの日はちょっとした作業やら何やらが結構多くて、額に汗をかくこともあった。バイトを辞めて5年間。ひたすらデスクワークで7キロも太っていた今の僕には、なかなかの重労働だった。
ほどなくして早番が到着し、引継ぎ作業がスタート。深夜帯での誤差もゼロのまま、なんとか仕事を終えて、タイムカードを押した。
アルバイトは労働の対価が少ない!
さて、僕の1日分の収入は幾らになったのか。この店では、2時から翌朝7時までが時給900円、そして7時から10時までが700円。ということで僕のこの日の稼ぎは、合計6,600円ということになった。
現在、僕の仕事は1日に2本書けばこの稼ぎを上回ることができるので、まあ率直に言えば「やってらんねえ」である。今なんて6,600円稼ぐのに、1時間掛からないもんなぁ……。でも久々にやったアルバイトは、結構楽しかった。もう二度とすることはないけど。
(文/松本ミゾレ)