税金の徴収方法も昔のような、いわゆる「年貢の取り立て」とは違って、所属している企業を介して納める特別徴収のビジネスパーソンが多く、間接的な取り立てのせいか『税』に関する知識・関心が薄い人が多いのが現実です。
税金が身近になったのは1989年の消費税法施行からでしょう。商品やサービスなどに対し一定の税率が課され、1997年の3%から5%への増税、さらに2014年の5%から8%への増税、どの時代でも反対の声が国民から多く上がりました。
所得税も実は変化している!
しかし消費税法施行の1989年から2015年の間に所得税の税率、およびその仕組みが何度か変化しているのですが、これに関してはあまり関心が寄せられていません。
増税したのは高所得者のみで、それ以外は減税したからからもしれませんが、改めて仕組みを学ばないといけないほど所得税に対しての関心は薄いです。
ここで改めて月収30万円で計算すると、毎月納めている所得税は24,000円です。納めている税金は所得税や消費税の他に住民税、自動車税、ガソリン税、他にも酒や煙草にも税金がかかるため、毎月納めている税金は10万円近くになります。
こうして金額にすると一気に税金が身近になり「何でこんなに取られるんだ」と働いて頑張っている努力をかすめ取られているような気になってしまいます。本当にこんなに税金が必要なのか、そもそも税金は何のために必要なのかを調べてみました。
【税金の日本史】弥生時代からあった『税』の概念
弥生時代
弥生時代では今の『税』に該当するものを『えつき』と言い、労役、兵役、穀物や穀物以外の物を国家に納めていました。国を作るための労働力として、国を守るための力として、労役者や兵役者また国を動かす指導者が食べるための食糧として、『えつき』は国の基盤となりました。
室町時代
足利時代には一部が金銭で納税されるようになりましたが、物納は江戸時代が終わるまで続きます。物納の基本は『えつき』で、国を作るための労役、守るための兵役、養うための物納が税の基本体制でした。
金銭での納税と同じく、税の基本体制の一部が初めて変わったのは足利時代です。国のシステムが成長し、労役の代わりに金銭を納め、関所の通行や入港に税がかかるようになりました。また外国との貿易も盛んになり、外国貿易許可税も生まれました。他にも市場での独占販売権に対する免許税や不動産保有税、さらに都市居住税も生まれました。
足利時代に社会システムの維持・運用費に『税』が使われるようになりましたが、『税』というのは民の負担です。負担が重過ぎる時代は荒れ、長続きしないことは歴史が物語ります。
戦国時代~江戸時代
特に戦国時代のように年貢が収穫高の2/3と負担が大きかった時代は「うちの殿様は戦(いくさ)ばかりして」と民の不満が積もり国内も荒れはて、時代も長く続きませんでした。これに対して江戸時代が長く続いた背景には税率が低かったからという説もあるほどです。
明治時代~現代
そして現代のように「何を買うにも税金、税金」と愚痴りたくなるシステムは明治維新以後に生まれました。明治時代には『税』は完全に現金納付となり、煙草、家屋、醤油、砂糖、相続、揮発油、広告など多くの物に課税されるようにありました。
課税対象物が増える背景には戦費調達の目的があり、第二次世界大戦が終わり1949年のシャウプ勧告が今の税制の土台となっています。
シャウプ勧告は第二次世界大戦に勝利した連合軍側が実験として新たな税制を日本に導入したもので、民主的な政府のもとで平等な生活をすることを目的としています。
『税』のもつ4つの力とは?
弥生時代から『税』の使われるものの基本は変わっていません。『税』には基本的に次の4つの力があります。
- 公共サービスの運用する力
- 所得を再分配する力
- 経済を阻害する力
- 景気を調整する力
1.公共サービスの運用する力
一番わかりやすいのは公共サービスの運用です。私たちには国や自治体の公共施設やサービスを利用する権利があります。
ここで注意ですが、納税は私たちの「利用する権利」に対する対価であり、「使っていないのに?」という抗議は受け入れられません。
また公共サービスには道路・信号・橋の運営および維持、ダムや河川の整備、さらには浄水場の運営なども該当し、日本で生活している限り「利用していない」とは言えないので「公共」と言われるのです。
逆に公共の施設・サービスは税金を納めている私たちからの要請を無視できません。私たちはより良い社会システムにするために公共の施設・サービスの運営に意見する権利があります。
2.所得を再配分する力
2つ目の所得の再分配ですが、日本をはじめ多くの国家には「福祉国家の理念」があります。福祉国家の理念では私的財産に対してあるていど国家が干渉するのはやむを得ないと考えられています。
解りやすく言うと、財産を持っている人から『税』という形でお金をもらい、財産を持っていない人に対し生活保護費などの名目でお金を与える、このように富を再分配する力が『税』にはあります。
3.経済を阻害する力
3つ目の経済を阻害する力は他の3つに比べてマイナスに働く力です。経済が本来あるべき理想の姿は投資意欲にあふれ、生産活動や労働意欲が活発で、消費意欲に富んでいる状態です。この理想の状態のときの税収が最も高いと考えられています。
しかし政府が私たちに重い税を課すと、例えば私たちは消費をやめたりして社会の経済活動が止まります。逆に税率が低く過ぎると、例えば公共サービスの質が落ちたりしてやはり経済活動に歪みが生じます。税率の変化は経済活動への影響が大きく、過ぎた『税』は経済を阻害します。
4.景気を調整する力
4つ目の景気を調整する力ですが、増税がニュースになると、きまって政治家は「景気対策のため」と答えます。景気対策というと真っ先に公共事業が浮かびますが、どうして「景気対策=公共事業」なのでしょうか。
『税』の使い道、公共事業が生み出す「いい循環」
景気を調整するために『税』を使うとき政府は「財政政策」と言いますが、財政政策のポイントは「景気を良くするために使う」ということです。この場合、必要なのか不必要なのかはあまり重視されません。必要・不要を考えて『税』を使うことは「財政支出」と言います。
財政政策が重視しているのは「いくら使う」であって、必然的に公共事業やインフラ整備などに税が使われます。「税金のムダ使い」と公共事業の評価は低いですが、『税』を使うことに目的を置いているので仕方がないのです。
国や自治体の発注した仕事は世の中の商売の量を増やし、その効果が全体に波及していきます。仕事は一企業でできるものではなく、下請けへと仕事は広がっていきます。
またその取引先の仕事が増え、前述した通り商売の量が増えていきます。そしてその商売に関わった多くの人の収入が増えることになります。この時点で「いい環境」が生まれましたが、ここで終わらせないことが財政政策で最も大切なことです。
収入が増えた人が消費し、世の中の消費量が増えること、そして多くの人の収入が上がることが財政政策ではとても大切です。「いい環境」が整って「いい循環」となり、「いい循環」がどんどん「いい循環」を生み出す、これが財政政策の目標なのです。
「いい循環」が生まれていくことを「乗数効果」と言い、理論通りに行けば政府の公共事業に投じた『税』は呼び水程度で十分であり、あとは「いい循環」がどんどん景気を良くしていくのです。
経済にとって効果的な公共事業、それをムダと思われてしまうのは必要なインフラが日本にはもう揃っているからです。しかし財政政策のためには公共事業が必要なので、仕方なく必要と思われないところを開発していくのです。必要なのは公共事業をすることであって、できあがった道路や橋ではないのです。
『税』の使い道、公共事業はわずか6%
景気対策のために公共事業が必要なのですが、今では建設業に従事している労働者の割合が以前よりも減ったため公共事業の波及効果も少なく、いい循環が生まれにくい状態です。
そのため高度経済成長期で公共事業に力を入れていた1970年台では公共事業に『税』の17.6%ほど使っていましたが、2014年には約6%まで下がっています。公共事業ばっかりと思っていましたが、ピークだった1970年台でも全体の2割弱という点に驚きです。
しかし公共事業への投入額が減っても税金が余ったりしていません。逆に増えているほどです。それならば『税』は何に使われているかと言うと、次のようになります。
- 社会保障 31.5%
- 地方交付税 15.5%
- 国債 23.5%
- 公共事業 6%
- その他 19.8%
社会保障とは医療費や年金などです。社会の高齢化が進む日本では削ることができない費用であり、受給者の数が増えた今では「ムダ」と称される公共事業の5倍の予算を投じていることになります。
また社会保障に次いで多く支出している項目は国債です。国債とは国の借金で、政府は使えるお金が無くなると「国債」を発行して借金します。
個人が借金しようが、国が借金しようが、利子がつくのは同じで政府は定期的に利息を支払う必要があります。
また国債には満期があり、期限が来たら政府は購入者に相当額を支払い、発行した国債を回収しなくてはなりません。現在の日本は税収の約1/4を投入し、過去の借金を返し続けているのです。
今の日本にとって公共事業をしようとしまいと、国家を維持・運営するためには税収入は絶対に必要なのです。
(文/高橋亮)