学費の支払いが困難な学生が、低金利でお金を借りて大学などの学校に通うことのできる「奨学金制度」。
家庭の経済状態にかかわりなく、自由に学業にいそしめるのは良いことです。奨学金として借りた分は、就職後に分割で返済していきます。
しかし、ひと時と比べて減少したものの、奨学金を返済できない若者が依然として存在しているようです。背景として
- 思うように就職できなかった
- 体調を崩してしまった
などの理由が挙げられるでしょう。
ここでは、奨学金の返済延滞者の増加状況や取り巻く環境、奨学金の返済ができないときの対処法、最終手段などについて考えましょう。
奨学金の返済延滞者の割合は?
独立行政法人日本学生支援機構が平成28年11月に発表した資料によれば、27年度末の時点で延滞者は16万5000人。平成21年の21万1000人をピークとして年々減少してはいますが、いまだに奨学金の返済を延滞している若者がこんなにもいるのです。
平成27年度の新規返還者の返還率は97.4%。ほとんどは返還されているものの、未返還率も2.6%とわずかながら存在しています。比率としてはわずかなものの、未返還分の金額を見ると決して小さいとは言えません。その金額はなんと880億円。
奨学金の主な原資は国民が納めている税金。奨学金の利用者がこのまま滞納を続けると、さらに税金からの補填が必要になったり、引いては今後奨学金制度の縮小などという事態にもなりかねません。
これは社会問題だともいえますが、滞納者本人の生活のストレスにもなっていることでしょう。何とかして解決を図りたいものです。
奨学金の平均返済額は、月々15,000円前後 です。この金額を、15年~20年かけて返済していきます。
月々15,000円と聞くと、仕事に就いていれば支払い可能な金額だという印象を受けますが、それでも滞納者が多いという事実からすると、かなり切り詰めた生活を送っている若者が多いと予測されます。
ところで、なぜこんなにも大勢の若者が奨学金の返済を延滞してしまうのでしょうか?日本学生支援機構が実施した、延滞者、滞納者へのアンケート調査によれば、
- 口座への入金を忘れていた
- 家計の収入が減ったから
- 家計の支出が増えたから
- 入院や事故、災害などがあったから
といった理由が大半を占めているようです。
入院や事故、災害は仕方がないとしても、無職や低収入が原因なら、近年の不景気が影響しているとも言えそうです。また、学費の高騰により、大学生時代に借り入れなければならない奨学金の金額が膨れ上がっていることも原因と言えそうです。
対処法としては、生活費をさらに削って出費を押さえつつ収入の良い仕事に転職しなければならないように思えます。しかし、昨今高収入を目指した転職はなかなか難しいもの。返済滞納から抜け出すためには、何かしら思い切った生活の変化が必要だと思われます。
「口座への入金を忘れていた」という理由に関しては、奨学金の返済を甘く見ている認識不足、甘えが関係しているように思われます。奨学金も借金だということを認識し、引き落とし口座にきちんと月々の返還額を準備しておくようにしたいものです。
奨学金を返済できない場合、どうなる?
奨学金の返済金額が残高不足で引き落としできないと、1~3ヶ月の時点で文書や電話による催促があります。滞納がそれ以上の期間にわたると、債権回収会社に業務委託され、文書や電話、訪問などによる個別返還指導がおこなわれます。
滞納が続くと一括請求されるでしょう。滞納期間が10ヶ月に及ぶと、支払催促申立の予告がなされ、裁判所へ支払催促申立が行われます。
ちなみに、平成27年度中に訴訟へと発展した件数は5,432件。これは奨学金を利用した学生中、ほんのわずかな割合にすぎませんが、それでもやはり多いですよね?
注意しておきたいこととして、延滞金が発生し、本人に支払い能力が無いと判断される場合、連帯保証人や保証人に返済義務が移行します。連帯保証人は親や親戚がなってくれているケースが多いでしょう。
この時点で奨学金を滞納していることが連帯保証人にバレますし、返済を請求された方としてはいい迷惑なので、関係がギクシャクしてしまうこともしばしば。
それだけではなく、個人信用情報機関にも情報がいき、ブラックリスト入りとなってしまいます。こうなるとその後5年間はクレジットカードやローンの申請に通らなくなります。
奨学金が返済できない時の救済措置は?
奨学金を返済できないときには、放っておくのではなく対策を練りましょう!お金に困っているときには性急に判断しやすく、落ち着いて情報を集めて……というわけにもいかなくなってしまうことがあります。
でも、落ち着きましょう。奨学金の返済に悩む方のためのこんな制度があります。
返還期限の猶予制度
事情があって奨学金の返済が困難な場合、一定期間返還を先延ばしにしてもらえる制度です。このような場合、この制度を利用することができます。
ケガや病気、災害、生活保護を受給している場合
- 失業中
- 経済困難
- 在学中
- 産休中
など。最長で10年間返済がストップします。条件に当てはまる場合、「返還期限猶予制度」を申請しましょう。
減額返還制度
月々の返済額を半額に減らすことができる制度です。
例えば、月々14,000円ずつ返済してきたとして、それが経済的に厳しくなったとします。「減額返還制度」を申請して利用すると、月々の返済額を半額の7,000円に減らすことができます。
その分返済期間は伸びますが、毎月の負担は軽くすることができます。この制度を活用できる条件は、上記「返還期限猶予制度」と同じです。
必要に応じて活用しましょう。
奨学金の返済が免除になるケース
以下の場合、奨学金の支払いが全額免除となります。
- 本人が死亡の場合
- 精神、身体障害で働けなくなった場合
以上の場合、奨学金の支払い義務はなくなります。
奨学金を返済できない際の最終手段
経済的に困難で、奨学金をどうしても返済できないときには、最終手段をとりましょう。最終手段は債務整理です。債務整理には
- 任意整理
- 個人再生
- 自己破産
があります。
どれにもメリット・デメリットが存在しています。債務整理は、弁護士や司法書士といった専門家に相談するようにしましょう。いわば法律の専門家に相談することで、法律にのっとった方法で最善策を検討してもらえます。結果、奨学金の返済義務から解かれたり、返済額減少が実現したりすることもあります。
ただし、債務整理を実行すると個人信頼情報に記載されてしまうので、いわゆるブラックリスト入りしてしまうことになります。なので、債務整理はあくまでも最終手段と言えるのです。
でも、ブラックリストに載るといっても、その情報は5年~10年で更新されるので、債務整理をしたら一生に影響を与えてしまうというわけではありません。
それに、ブラックリストに載って困ることと言えば、一切の借金ができなくなるということ。これはある意味、借金のクセがある方にとってはメリットとも言えるのです。今後、借金地獄に陥ることから守られますよね。
おわりに
いかがだったでしょか?まとめると、経済的に苦しくて奨学金の返済が難しいなら、救済処置となるのは「返還期限猶予制度」と「減額返還制度」。経済困難やケガ、病気、失業などで奨学金の返済が難しい場合、こうした制度を活用することで返済を一時的にストップできたり、月々の返済額を半分に減らしたりすることができます。
滞納を続けたり催促を無視していると、
- 一括払いを請求されたり
- 連帯保証人に迷惑をかけたり
- ブラックリストに載ったり
- 裁判ざたになったり
と、状況は悪化していくばかりです。
そうなる前に手を打ちたいものですが、すでに遅い場合、弁護士や司法書士などのプロの手を借りましょう。
まとめ
- 平成27年の時点で、奨学金の滞納者が16万5000人もいる。
- 月々の平均返済額は15,000円。
- 「返還期限猶予制度」とは、返済を一定期間停止できる制度。
- 「減額返還制度」とは、月々の返済額を半額に減らせる制度。その分返済期間は伸びる。
- 最終手段は債務整理。
(文/河原まり)