「馬鹿と煙は高いところが好き」という言葉がある。
意味としては、愚かな人はおだてや挑発に乗りやすい、というところなんだけど、まさにそういう人たちが長年引っかかり続けている商売がある。
それが、よく雑誌の広告ページなんかで見ることのできる、開運グッズの通信販売コーナーだ。
「これを身につけるだけで、お金があっという間に貯まった!」なんつって、購入者とされる胡散臭い人たちの顔写真と、体験談が掲載されているのが主な特徴。
さらには、聞いた事もないような霊能者の写真とインタビューなんかもセットになっていて、まさに「誰が買うんだこんなの」状態であるんだけど、こういうのが長年途絶えないということは、そういうことなわけだ。
そう。こんな地雷としか思えないようなものを、わざわざ買ってしまう人ってのが、実際にいるのである。
パチンコで90万負けた後輩、汚名返上の策とは!
先日、筆者が10年以上前にアルバイトをしていた先で後輩として接していたOくんと、ばったり再会した。
仕事の合間に、近所のパチンコ屋をうろついていたところ、明らかに消沈しながら、とあるパチスロ台に投資を続けるOくんを発見し、向こうもほどなくして筆者の存在に気付いた。
コーヒーを差し入れつつ、お互いの近況について話しながら、筆者も隣で打っていたところ、すぐに当たって数千円儲かった。
一方でOくん、とことん運に見放されたようで、筆者が確認しただけでも、この日は推定40,000円ほど負けているということである。
「今年に入って、もう900,000円近くやられてるんですよねぇ」と話すOくん。
パチンコ馬鹿は基本的に、勝ち金額は盛る癖があるが、負け額は結構正直に白状するもの。恐らく、この馬鹿げた負債額の告白は、本当のことだろう。
彼の服装や、ボロボロの靴を見ていると、なんとなくそう思えてくる。
しかし、Oくんは「でも、もう少ししたらこの負けは挽回出来るんすよ」と話す。
何故かと問うと「松本さん、開運ブレスレットって知ってますか?」と言う。
「知っているよ。いんちきグッズだよね」と答えると、Oくんは不適な笑いを浮かべた。
「いやぁ~それは見る目がないだけですよ、本物はあるんです。
俺、その本物を見つけたんすよね」
本物の見つけ方とは何ぞや。曰く、これまでとは広告の文章の説得力が違うというのだ。
でもここだけの話、Oくんって「方法」を「方々」と書いちゃうぐらい学がない人物として、バイト先では有名だった。
そんなOくんが説得力云々言っても、全く説得力がない。
筆者の心配をよそに、Oくんは「次の日曜日にまた来るんで、そんときに本当の俺を見せてやりますよ」と言っていた。
ついに届いた開運グッズ、反撃の狼煙が上がる…
果たして日曜日。
筆者は仕事を済ませてパチンコ屋に向かった。
するとそこには、右腕に真新しい水晶と数珠のブレスレットを装着して、背中を丸めて打っているOくんがいるではないか。
そのときの時刻、まだ正午過ぎ。
Oくんの打っている台を遠目に眺めても、爆裂している気配は無い。
きっとOくんも来たばかりなんだろう。そう思って話しかけると、彼は言った。
「9時過ぎから打ってるんすけど、もう50,000円負けてます~……」
嘘だぁ~、とか思いながらグラフを確認させてもらうと、確かにそのぐらい凹んでいる。
開運グッズの華々しいデビュー戦でこの有様。
まさしく、一点の曇りもないほどのクソブレスレットである。
「だから言ったじゃん、いんちきグッズだって」と話しかけると、Oくんが一瞬殺意のこもった目で僕を睨んだ。
イヤだイヤだ。ギャンブルは人の心を、こういう具合にして荒ませる。
Oくんは、「このブレスレットをつけると、運気がアップして、ギャンブルでも大勝できる」と息巻いていたわけだが、結果として3時間で諭吉さん5人も殺してしまっていた。
何でなくならないのか。そして何故買う人がいるのか
いんちき開運グッズは、昔から手を替え品を替え、存在し続けている。
しかし、こういうもので幸せを掴んだという報告を、商品広告ページ以外では聞いたことも見たこともない。
全部嘘なんだから、当たり前の話だ。
「信じる者は救われる」とは言うけど、詐欺師を信じたらお金がなくなるのは道理である。
Oくんは、水晶がちょっと綺麗なだけのこのいんちきブレスレットに、20,000円近い代金を振り込んでいた。
しかし結果的に、その20,000円はドブに捨てたに等しい結果に終わった。
詐欺師はこの手の嘘広告で馬鹿を釣ろうとする。
普通の人は引っかからないが、馬鹿は疑うことをしないので、ほいほい代金を払ってしまう。
Oくんは、今も昔も、馬鹿である。
(文/松本ミゾレ)