10月某日のこと。
各駅停車の総武線で水道橋方面を目指して移動しようと思ったところ、ホームには人、人、人。
花火大会開催地の最寄り駅のような混雑っぷりだった。
すわっ、また新小岩で人身事故か?と思ったが、それよりももっと先の駅で人身事故が起こったせいで遅延が相次いでいたのである。
なんでも、僕が駅を訪れる少し前までは「遺体が広範囲に散らばっておりますので、回収にはまだお時間をいただくことに……」という趣旨の放送も流れていたのだとか。
ただでさえ総武線は乗車率が高い。ましてや通勤ラッシュに直撃し、挙句に当日は雨だったことから、あちこちから「勘弁してよ」の声が上がっていた。
ところで僕は、普段新潟に住んでいる。
その理由はなんといっても、人が少ないし、電車も混まないからだ。
僕は都会の喧騒が大嫌いで、そのために上京することができないでいる。
このときは久々の満員電車だったわけだけど、案の定、乗車して20分ほどで具合が悪くなり、イライラするようになった。
最終的には途中下車し、混雑が緩和されるまで、降りたこともないような駅のホームで1時間以上油を売っていた。
こういう体験をするたびに思う。
「電車に飛び込む自殺者は、よそで死ね」と。
鉄道飛び込みで請求1億円の噂…果たしてこれは真実?
ところでネット上では、しばしば真偽不明の噂が公然とまかり通ることがある。
たとえばこの手の話題でいうと、鉄道に飛び込んでの人身事故は、多くの利用者が足止めを食らい、経済的損失が尋常ではないことから、遺族には1億円ほどの慰謝料を請求する、というものがある。
まあ、実際の損失やら駅員の手間のを考えたら、そのぐらい請求してやれという気持ちにはなる。
だけど、あまりに途方もない請求金額である。
冷静に考えれば、こんな無茶な請求したところで、遺族に払えるはずはないだろう。
とはいえ、ある程度の賠償は請求されてしかるべき。
実際の請求額については、気になるという方もいるはずだ。
鉄道職員がいうおおよその目安は、200万円程度
こういうときは、専門家に聞くのが一番いい。
そこで僕は、現在小田急線の職員として働いている同級生から、飛び込み事故で死んでしまった人の遺族に請求される諸々の費用について質問してみた。
まずは率直に、一部ネットで1億円も請求するなんて噂もあることについて、見解を伺ってみる。
「は?高い。高すぎるやろ(笑)。実際にはそんなに請求したりはしないよ。それで遺族が絶望して後追いされたら、社会的にも印象悪くなるし」
うん、やっぱりネットの噂はしょせん噂に過ぎなかったようで安心した。
では実際の請求額の中央値は、実際どのぐらいなのだろうか。
「大抵は、取るとしても100万~200万程度やね。このぐらいが、実際に支払ってもらえる現実的な金額だから」
おお、思ったよりもかなり安い。
とはいえ大金に違いないし、金額以上に事故による遅延は多くの経済的な損失も生む。
金銭的な理由だけではなく、人身事故なんて起きないのが一番ということには変わりない。
もっとも、実際に遺族に請求するなんて滅多にない?
それにしたって、家族が電車に飛び込んで死んでしまった挙句、その電車を利用していた人たちに嫌な気分を味わわせてしまい、さらに鉄道会社から賠償請求をされるなんて、遺族にしてみればとんでもない話である。
ただし件の同級生いわく、請求する見込みの金額と、実際に請求するかどうかは全く別の話だという。
遺体が損壊著しい場合は身元の特定にも時間がかかるし、諸々の処理だってさっさと済むわけではない。
遺族への請求というプロセスに至る前に、現場も疲弊することも多いようだ。
実質、遺族への賠償請求には至らないまま、ひと段落するのがほとんどで、いわば賠償請求は行き過ぎ、タブーという風潮もあるとのこと。
まあ、何にせよ、自殺なんかしないのが一番だ。
(文/松本ミゾレ 写真/Takamex / Shutterstock.com)