今の世の中は世知辛い。本当に世知辛い世の中だ。ああ、世知辛い。
何が世知辛いかって、もう何もかもがしみったれているではないか。
娯楽も、経済も、そして仕事も。
厚労省が発表、これが日本のブラック企業の実名だ!
今年5月。厚生労働省が画期的な情報を公式サイト上に発表した。
長時間労働、賃金の不払いなどが常態化した、いわゆるブラック企業の実名の公開をスタートしたのだ。
これは2016年10月から、今年の3月の間に労働関係法令に抵触、送検された334件の報告を元にしたもので、現在この334の会社の企業名と、違反内容などがリスト化されている。
もちろん、今年前半に世間を賑わせたあの電通の名も、しっかりと表記されている。
このリストは毎月更新されることになっており、送検から1年間はずっと掲載され続けることになる。
今後は就職を控える学生たちが、まずこのサイトに目を通すというのが当たり前のものになるのかもしれない。
こういう処置でもしないと、ブラック企業が幅を利かせ続けている状況は変わらないだろうし。
やめて!後藤くんのライフはもうゼロよ!
先日、趣味の麻雀を通じて知り合った27歳の男性もまた、この世知辛い世の中に翻弄されていた。
彼の名は後藤くん。後藤くんは九州出身で、現在は埼玉県でサラリーマンをしているが、その顔は思わず二度見してしまうほど、生気がない。
血の気がなく、眼は落ち窪み、唇はほとんど紫色をしている。
そんな後藤くんと飲みに行ってみたところ、何故そんな顔になったのか、理由を話してくれた。
ビールで乾杯した直後、開口一番に筆者は「ところで後藤くんは、どうしてそんな顔色悪いの? ちゃんと食べてる?」と質問してみた。
すると彼は困ったような顔をして、こう話してくれた。
「いきなり聞かれるとは思ってなかったんですけど、まあいいや。
僕、欝なんですよ。原因は仕事だと思います。ほとんど。
残業がつかない会社でして、毎日のように残業、残業。午前様の帰宅も珍しくありません。
仕事が出来ないので、原因は僕にもあるかもしれませんが、毎日上司から監視されて働いていると、こう……胃が痛くなる思いで」
ここにも、ブラック労働者がいた。
いや、正直そうじゃないかと思っていたんだけど、まさか欝も発症しているとは思わなかった。
しかし彼の状況はなかなか深刻なようだ。
毎日のように薬が手放せず、朝は泣きたい思いで電車に乗り、職場に向かう。
そしてまたそこの上司が嫌味なヤツだそうで、ネチネチ小言ばかり言うのだそうだ。
残業200時間!正直、消えて無くりたい‥
そういう状況が、大卒で入社してから今日までに、ずっと続いている。
「これ、信じてくれるか微妙なんですが、先月とうとう、残業が200時間を突破しました。
ずっと会社に残って、監視される中で作業していると、本当にも堪らないんです。
こんなに残業して、毎月170,000円程度の手取りで。
これじゃ何のために上京したかも分からない」
ブラック企業に入社すれば、誰もが心を病む!
筆者はこれまで、いくつかの媒体でブラック企業について糾弾してきた。
ブラック企業をこき下ろすコラムもいくつも書いている。
つまり後藤くんは筆者にとっては、普段叩いている企業の側の人間ということになる。だけどさすがにそんな彼を攻撃はできない。
あくまでも被害者なのだから。現に心まで病んでしまっている。
そこでこれまでに執筆した、ブラック企業に対する見解をいくつか読ませてみた。
また、個人的に所蔵している、ブラック企業関連の資料も貸してあげた。
その上で「辞めなければこの先もずっと気持ちは上向かないし、顔色も死人のままだよ」と伝えたのだ。
第一、この夜に2人で入った居酒屋で、お通しが3つ運ばれている。
そのうちの1つが彼の横に置かれた時点で、既にこう、死神めいたものが近づいてる気配すら感じた。
とは言え、彼はきっと現在、正常な判断は難しい状態にある。
辞める勇気こそが大事だと伝えることしかできないが、それでも後藤くんが決断をしてくれればいいなぁと思う次第だ。
ブラック企業とは、従業員を潰す勢いで酷使しなければ存続できないような脆弱な業態の団体である。
こういった、会社の猿真似をするだけの集団は、本来社会にあってはならない。
真っ当ではない業務をこなさせることでしか維持できないような集合体など、さっさと消えてもらうほかない。