世界から見る日本の残業時間
日本人の平均残業時間は月47時間だと言われています。この数字を見て「え?そんなに短いの?」と思う人もいるでしょう。これは業種や職種関係なく平均した数字なので中には毎日夜遅くまで残業をして自宅には寝るだけの為に帰っているという人もいるでしょう。そしてニュースでは過労死のニュースが流れています。
世界的に見ても日本人は働きすぎだと言われています。この働きすぎの大きな原因が残業なのです。日本の社会では個人の成果や能力よりも残業時間が多いことが評価に繋がるという背景が過多な残業時間や休日出勤などの長時間労働を生み出しているのではないでしょうか。
世界的に見ても日本の残業時間は長い
残業を含めた長時間労働に慣れてしまっていると言っても過言ではない私たち日本人ですが、世界から見た日本の労働時間はどうなっているのでしょうか。2012年に経済協力開発機構が行った年間労働時間に関する調査から見てみましょう。
まずは最も労働時間が長い国をランキング化したものです。
1位・・・メキシコ~2226時間
2位・・・ギリシャ~2034時間
3位・・・チリ~2029時間
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アメリカ~1790時間
日本~1745時間
そして次に最も労働時間が短い国をランキング化したものです。
1位・・・オランダ~1381時間
2位~ギリシャ、ノルウェー、フランス
労働時間が短い国のランキングを見ると労働時間が短い国はヨーロッパに集中していることがわかります。
ここで、労働時間が長い国のランキングを見ると日本よりも労働時間が長い国はたくさんあるのではないか?と感じます。アメリカさえも日本よりも25時間も多いのです。
日本と1位のメキシコの労働時間の差を見ると、「なんだ、日本人は世界一労働時間が長いと思っていたのに世界には日本人よりももっと働いている国の人がいるじゃないか!」と思ってしまうのですが、ここで大きな問題があります。
実はこのランキング、日本で蔓延しているサービス残業は含まれていないのです。
サービス残業とはいくら残業をしても正規の残業代が支払われることのないただ働きのことを言います。サービスとは言っても労働者が好意で行っているのではなく、時間内に終わらせることができない仕事量などが原因でやむを得ず残業しているのが実情です。
つまり、労働時間や残業時間をランキング化したものや平均したものを見る際には残業とは認められずデータに反映されることもない、見えない労働時間があることを知っておかなくてはなりません。
残業が多い=年収が高いではない
勤めている企業の業績が悪い状況であれば社員一丸となって会社を盛り上げ業績回復に努める為に残業時間が増え、長時間労働になってしまうというのは一時的なものであれば当たり前に行われていることでしょう。
ですが実際には企業の業績が回復しても長時間労働の問題が解消されることはほとんどありません。そして長時間働けば働くほど、労働の対価として支払われる賃金が高いとは限らないのです。
では世界協力開発機構が調査した世界で最も可処分所得が高い国トップ10を見てみましょう。
【可処分所得が高い国トップ10】
国名 | 平均年収 | |
1位 | アメリカ | 495万円 |
2位 | ルクセンブルク | 465万円 |
3位 | ノルウェー | 400万円 |
4位 | スイス | 400万円 |
5位 | オーストラリア | 377万円 |
6位 | ドイツ | 373万円 |
7位 | オーストリア | 372万円 |
8位 | カナダ | 350万円 |
9位 | スウェーデン | 349万円 |
10位 | フランス | 344万円 |
可処分所得とは税金などを差し引かれて残る自由に使えるお金のことであり、もちろん国の情勢や社会福祉制度によって差し引かれる税金などにも差があり、豊かさの定義もさまざまな基準があるのですが、自由に使うことができるお金がどれだけあるのかというのはひとつの指標と言えるのではないでしょうか。
ちなみに日本人の平均年収は414万円だと言われています。この数字だけを見ると世界の中でも日本人はそこそこの年収を稼いでいるのでは?と思うのですが、問題はそこではありません。
ランキングを見ると最も労働時間が短い国のランキングの上位に入っている国が可処分所得のランキングにもしっかりと入っているという事実です。
つまり、残業をして労働時間が多くなっても必ずしも年収が高いわけではないのです。
残業代ゼロ法案で年収が大幅ダウン?
2015年4月3日に閣議決定されたのが残業代ゼロ法案です。正式名称は日本型新裁量労働制と言います。この法案によって労働時間ではなく成果で報酬が決まるようになると言われています。
元々は年収が1075万円以上の人、金融商品の開発や為替のディーラーなど高い職業能力を持つ人が対象となっていましたが新法案では年収や職業に関係なく広がる可能性が出てきているのです。
残業代ゼロ法案とは
- 深夜労働の回数制限と始業から終業まで一定の時間を設ける
- 労働時間を一定時間に制限する
- 年間104日以上の休日を確保する
この3つのうちどれか1つを企業が導入することによって定めた労働時間以上に働いても残業代をゼロにすることができるというものです。
労働時間を規制し休みを確保して、働く時間が短くても結果的に成果を出すことができれば評価をするというもので自由な働き方ができる、また長時間労働による過労死を防止する目的として検討されたのですが、逆に長時間労働の温床になるのでは?と反対する専門家も出てきています。
残業代ゼロ法案のメリットとデメリット
■残業代ゼロ法案のメリット
- 残業をしても残業代が出なくなることから、いかに仕事を早く終わらせて帰ることできるか?と考えるようになり個人の生産性が向上する。
- 能力が低いことから仕事を終わらせる為に残業をして長時間労働をしていた人が賃金が高いという矛盾があったのに対して残業代ゼロ法案が導入されればシンプルに仕事の成果に対して賃金が支払われる
- 残業そのものの規制がないのでプロジェクトなど本人が頑張りたいと思ったときに残業の申請などを出さなくても自分の裁量で残業をすることができ、通常ではしにくい仕事などもしやすくなる
残業代ゼロ法案のメリットは成果を正しく評価してもらえることによって自分のペースで働くことができるようになり、効率的に仕事をして家族や趣味に使う時間を確保することができるのです。
■残業代ゼロ法案のデメリット
- 実際の労働時間の把握が難しくなることから更に長時間労働に陥ってしまう人が出てしまい、逆に過労死を増大させる懸念がある。
- 職種に関係なく残業代ゼロを取り入れることで、これまで残業代を含めた年収で生活をしていた人の年収が大幅にダウンする可能性がある。
- 共働きの家庭の場合は家事や育児を担う女性の負担が増える可能性があり、さらなる少子化に繋がる。
改正法案の中にある3つの中の制限のうちどれか1つを導入すれば良いという考え方から、極端な考え方をすると労働時間を一定にすれば休日は0でもいいのか?年間104日以上の休日を確保すれば休日以外は24時間働かせてよいのか?となってしまうのです。
労働時間ではなく成果を評価するという目的から生まれた残業代ゼロ法案ですが、まだまだ抜け穴が多く、2016年4月に施行が予定されており、施行されれば働き方に直接影響する可能性もあるのでメリットとデメリットをしっかりと抑えておきましょう。
重要なのは能率!
残業をする人=年収が高い
確かに、時間給であれば残業をすればするだけ年収は高くなるでしょう。
ですがほとんどの人が時間単位で仕事をしているわけではありません。
残業時間が多い人=仕事の効率が悪い人
「残業すればいいや」と思うことで日中の仕事の能率は落ちてしまいます。残業ができるということが能率低下を招いているのです。
もちろん、ここという勝負の時はあるでしょう。ですがこんなことは年に数回あるかないかですからそれ以外の残業はやはり仕事の効率が悪いことで増えてしまうのです。
無制限の労働に陥っていないか?
残業をすることで残業代を稼げば年収は必然的にアップします。中には基本給は少ないが残業をすることで高い年収を保っているという人もいるでしょう。
ですがそれは残業があるからであり、一時的なものと言っても過言ではありません。残業がなければ大幅に年収はダウンしてしまいます。
またみなし残業があってもその対価以上に仕事をしており、有限であるはずの労働が無制限の労働に陥ってしまっているのです。
(文/中村葵)