孤独死というものが社会問題となっていますが、これは独居の高齢者の問題だと思われていたものが、ところが最近は40~50代の独身男性の一人暮らしでも増えている、ということが統計上分かっています。
その男性が自宅で孤独死した場合はまだしも、賃貸物件に住んでいて孤独死した場合は、その後始末は非常に困難になり、家主、大家の大きな負担になります。
ここでは、自分の賃貸物件で孤独死が発生してしまった場合
- どのような問題が生じ
- そしてその対応としてどの程度の費用がかかりそれはだれが負担するのか
- さらにはそのようなことが起こった時のための事前対策はあるのか
といったことについてご説明します。
40代独身男性の孤独死増が社会問題に
孤独死とは
そもそも孤独死とは一人暮らしの人が誰にも看取られること無く、病院などではなく本人の家の中で生活中に病気などで死亡することを指します。
これは、司法上は「変死」扱いとなるため、孤独死を発見した場合は警察に届ける必要があり、かつ検死や司法解剖が行われます。そしてその物件は自殺や殺人事件が起こった物件と同じ「事故物件」扱いとなります。
なぜ孤独死するのか
孤独死がなぜ発生するのかという原因は人ぞれぞれですが、もともと慢性的な病気によって死亡するだけではなく、孤独感や虚無感を飲酒によって紛らわせようとして慢性アルコール中毒になり、それが亢進して肝硬変などになった結果、心筋梗塞や脳梗塞の発作を起こして死亡するというケースも多いのです。
40代の独身男性孤独死が増加している原因は
その孤独死は独居老人の問題だけではなく、40~50代の中年男性に増えてきている現状があり、現時点では孤独死全体の25%を占めるに至っています。
これは、勤めていた会社から解雇やリストラをされたり、会社そのものが倒産などをして、再就職もできないまま社会に居場所をなくし引きこもっていてしまった独身かつフリーターの男性が、孤独死しているケースが増えてることによります。いわば社会構造の問題です。
そういう人は自分をコントロールできなくなっている場合が多く、住んでいる部屋も「ゴミ屋敷」状態になり、そのような不衛生な環境も孤独死を誘発しています。
潜在的な孤独死対象者はどういう人か
もしも自分の賃貸物件に以下のようなプロフィールの人物がいたら、孤独死を懸念する必要があります。それは
- 40代~50代
- 独身
- フリーター
です。
まず40代以上のフリーターは結婚への障害が多く非常に独身の人が多いのが特徴です。そして、地方から上京してきて親と離れて暮らし、コミュニティは働いていた職場しか持っていません。
そこからその職場を失ってしまうと、まったく社会とのつながりがなくなり、まさに「孤独」になります。
加えて、1人暮らしの男性は偏った食生活をとっていることが多く、またフリーターになった後は生きていくために夜勤などの労働環境の悪い仕事で働かざるを得くなる、ということが病気を招いてしまいます。
そして病気になっても、誰にも助けを求める相手がいません。
これらの条件がそろっているので、40~50代の独身男性でフリーターの人は孤独死予備軍だと言えるのです。
賃借物件で孤独死された場合何が問題か
では自分の持つ賃貸アパートなどで孤独死が発生してしまった場合、どのような問題が起こるのでしょうか。
孤独死から発見まで時間が経過している場合特殊清掃が必要
孤独死をした後発見まで時間が経過すると、死体は腐乱する可能性が高くなります。
すると、遺体からは体液がしみだし、異臭が発生し、通常の借主変更などの時の室内設備のハウスクリーニングではそれらの払拭が困難になり、特殊清掃が必要になります。
特に、夏場に発生した場合は、死亡の翌日から腐敗が始まり、すぐに発見し清掃した時と、1週間後に開始した時とでは、特殊清掃の費用も数十万円単位で増えてしまいます。
さらに最悪の場合は、2階で孤独死が発生してしまうと体液が床から漏れて1階の天井を通じて階下に垂れてしまうということも起こります。そうなると、基礎から工事をし直して建て替えるしかなくなります。
特殊清掃の費用は50万から300万以上にも
この特殊清掃を含めた原状回復費用は、数十万円から100万円を超え、最悪は300万円以上になる場合さえあります。たとえば、1番軽微な被害で特殊清掃業者に委託した場合、費用の最低料金は以下のようになります。
床上の特殊清掃 | 3万円 |
浴室の特殊清掃 | 5万円 |
消臭剤・除菌剤の散布 | 1万円 |
消臭・除菌(オゾン処理) | 3万円 |
汚染された畳の撤去 | 1畳3000円 |
特殊清掃士人件費 | 1人1日2万円 |
仮に1人の特殊清掃士によって1日で作業が終わったとしても、これらの合計で15万円前後の金額がかかります。
そして、孤独死の場合は被害はそれではすまないケースが多いので、当然費用はこれ以上かかると考えておかなければなりません。家主にとって、孤独死予備軍と賃貸借契約を結んでいるということは、これだけのリスクがあるのです。
「事故物件」扱いになるので、次の借り手がつかなくなる
さらにもう1つのリスクは、孤独死は「変死」扱いなので、孤独死した部屋は事故物件になるということです。
事故物件は、法律上、不動産広告などにもその旨を明記しなければなりませんので、賃料を下げなければ借り手はつきません。借り手がつけばまだいいほうで、ずっと空室のままという可能性も高いのです。
その家賃の遺失利益を考えると、大変な損害になります。
費用負担は基本は遺族だが相続放棄の可能性も
このような莫大な費用を家主が負担しなければならないかというとそうではありません。賃貸借契約上の賃借人の地位も相続の対象となるからです。
つまり孤独死が発生した場合、その配偶者や親族などの法定相続人が賃貸借契約に基づく権利義務も承継し代わって賃借人となるのです。
ですので、相続人は原状回復の損害賠償義務を負うので、家主はその相続人に特殊清掃費用などを含めた費用の一切の負担を求めることができます。
しかし、孤独死した人に相続財産がなく、あっても借金だけの場合は相続人は相続放棄をする可能性が高くなります。そうなると、相続人への請求はできません。
ただし、賃貸借契約に連帯保証人や身元保証人などをつけている場合は保証人は賃料だけでなく、損害賠償債務も保証していることになるので、相続放棄があったとしても、その保証人への請求は可能です。
しかし、家主が長期間の家賃滞納を放置した場合などは家主の管理責任が問われ、その分賠償額が減額される可能性もあります。
相続人が相続放棄し、保証人もつけていなかった場合は損害の回収は不可能になります。
孤独死されたときのためにどういう対策があるのか
このようなリスクを持っている賃借人とは最初から契約しなければいいではないか、という意見もあるかもしれません。
しかし最初から孤独死予備軍と分かっていればそうでしょうが、契約の段階では定職があり、あるいは家族の存在も分かっていていることがほとんどでしょう。
その賃借人が、入居後に仕事を失ったり、離婚したりして孤独死予備軍になってしまうのが問題なのです。また仮に入居者がそうなったからと言って、家賃などの滞納がなければそれを理由に退去を求めることもできません。
このような「後付け」のリスクがある賃貸経営を続けていくうえで家主が自分を守るためにはどうしたらよいのでしょうか。
家賃補償保険に加入しておく
1つは「家賃保証保険」に加入しておくことです。そしてその中でも「修理費用担保特約」がある保険を選びましょう。
家賃保証保険とは賃貸住宅オーナー向けの商品で孤独死などの死亡事故や、火災、風災など予期できない事故で賃貸住宅に損害が生じ、リフォームや特殊清掃が必要となった場合に、その期間中の家賃収入を最大6ヵ月間補償してくれるものです。
ただし、これは家賃収入の遺失分の補償なので、特殊清掃などの修理費用は含まれません。それをカバーするのが、修理費用担保特約です。したがって、これもセットで加入しておけば、上限はありますがリスクはかなり避けられます。
また、臨時費用として1回の事故につき20万円から50万円程度の補償がついているものもあります。
仮に、孤独死した人に全く親族がおらず、最低限にしても火葬や葬儀、あるいは遺品整理などの費用が発生し、それを家主が負担した場合など、この臨時費用が使えます。
保証人と敷金は必ずつける
また最近は賃貸のハードルを下げるために、保証人不要、敷金不要などの条件で賃貸に出しているケースもありますが、孤独死予備軍になる可能性が少ないファミリー向け大型物件や、学生向け物件、女性の賃借人など以外の場合は、
- 保証人をつけること
- 敷金を納めてもらうこと
を必須条件にすることが、このようなリスクを未然に防ぐことになります。
まとめ
いかがですか。
以上見てきたように、40代~50代の孤独死は今後も間違いなく増加していくことが予想されます。なおかつ「元上場企業の幹部」などでも孤独死するケースが発生していることから、どのような人物と賃貸借契約を結んだにしても、家主にとってはいつ孤独死が発生した物件を抱えてしまうことになるかわかりません。
ですので、そういう事故が起こった時のために、リスクを可否する自己防衛の措置はしっかりとしておきましょう。
(文/丹波りん太郎)