昨今、画像投稿サイトなどで人気の素人イラストレーターが増えてきた。
いきなり暴論で恐縮なんだけど、こういうのは人気があろうと所詮素人。
超絶技巧を有していても、その技術に対して正統な見返りを求めない。権利関係の勉強も、9割方していない。
だからたとえば、ソーシャルゲームのスタッフに◯ソが出るほど安い値段で仕事を打診され、舞い上がって引き受けるといったケースが増えている。
このような素人のせいで、現在本業のイラストレーターが苦境に立たされている。
無自覚、無勉強のイラストレーターの卵に潰される本業たち
どの業界もそうだけど、一度相場よりかなり低い価格で仕事を受注する者が現れれば、たちまちのうちに価格破壊が起きてしまう。
昔は「御社との関係もあるから、内々でこの価格で請けます」なんてのが通じたけど、今やネットもあるから、そういう価格事情が何故かすぐに露呈してしまう。その極端なケースが、イラスト業界だ。
ご存知のように、現在では似たようなソーシャルゲームがさまざまな企業からリリースされ、金太郎飴のように量産され続けている。
このようなゲームのイラストを手がける人々の中に、驚くほど安値で仕事をさせられたイラストレーターもいる。
今回は、イラスト1枚をたった300円で作成することになってしまった、素人イラストレーターのM君に話を聞くことができた。
まず聞きたいのは、何故こんな安い値段で引き受けてしまったのかということ。これについて返ってきた言葉が以下の通り。
「僕はずっとイラストを描いて仕事にできればと思ってて、最初はキャリア作りのために300円で引き受けたんです。
でも、契約書には1枚300円と書かれていて、僕はそれをあまり意識せずに印鑑を押しました。
数ヶ月してギャラの交渉をしたら、『次の年度まで1枚300円ってことで了承してもらって印鑑を押したじゃないですか』と言われてしまいました。
たしかにそう書いてあったけど、これってあんまりでしょ?」
開いた口が塞がらない。
いや、このM君が1人で墓穴を掘って苦しむのならまだ笑い話なんだけども、現実にはそうそう笑えない事態が起きている。
M君のような低単価でも「俺もプロデビュー!」とウキウキで引き受ける素人のせいで、プロへの依頼が減っているのだ。
素人がプロを殺す!イラスト業界は風前の灯
プロのイラストレーターは、当然絵を生業にしているので単価も高い。一方でそれに見合ったクオリティを提供する。
ところが昨今のソーシャルゲームは、いわゆる粗製乱造ともいうべき状況。イラストそのものの価値が随分薄まってきた。
いわば「イラストは綺麗で当然」なのだ。
しかも、下手にその条件をクリアする素人も増えてきたため、収拾がつかなくなっているのである。
よく物事を考えずに、適当に夢を見て安請け合いする素人のせいで、プロは余計な被害を受けている。
中にはサラリーマンとして生活しながらも、趣味で安く仕事を引き受ける大人もいるようだ。
本人はちょっとしたお小遣い稼ぎと自己満足、あるいは承認欲求を満たすことができて嬉しいかもしれないが、そんな自慰行為に巻き込まれるプロが不憫でならない。
おわりに
仕事を真面目に仕事と捉えないイラストレーターの台頭によって、しっかりと仕事として、適正価格で発注を受けていた本業が仕事を失い、業界全体の相場がハチャメチャになりつつある。
断言するが、いくら良いイラストを安く引き受けても実績になんかならない。こういうイラストレーターは仕事の穴を埋める部品にしかならない。
これはイラストレーターだけじゃなく、僕のようなライターでも当てはまる。
この手の業種はやろうと思えば誰でもできるものであって、特別な才能はいらない。
綺麗なイラストが描ける人間、文章が上手い人間なんか、その辺に腐るほどいるのだ。
真面目に会社勤めをしている人間のための余暇産業として、辛うじて成り立っている程度の業種ということを忘れてはいけない。
自分が特別だなんて思って夢を見ると、自分ばかりか周囲をもその「夢」で殺す羽目になってしまう。
理想を実現したいなら、まずは相場を破壊しないことだ。
(文/松本ミゾレ)