その日暮らし

副業で稼ぎたい

ギャラ1万円でその日暮らしの男に取材してみた!

投稿日:2016年4月13日 更新日:


人間、体が資本。体さえあれば身一つで何をなすこともできる。そう、本来人間は、食って寝るためのお金さえあれば、生きていけたのだ。

それが近代では、無駄に医療制度が整ったことで、ほれ見たことか、日本人なんてここ50年のうちに、平均寿命が男女ともに20年も延びてしまった。

平均寿命が延びたといっても、長い間チューブに繋がれてかろうじて生き長らえているという状況の高齢者も少なくない。できれば「ピンピンコロリ」で、あるときポックリと逝きたいという願望がある人にとっては、現代の医療レベルの高さは痛し痒しだ。

ところで先日、「俺はできれば体を壊したら、即あの世に逝くような人生の幕引きをしたいんだ」と話す人物と話をする機会があった。彼は日雇いの労働者。無保険で安アパートに暮らすこの男性は、現在59歳。

年金受給開始まであと6年となっているが、年金だけもらっても贅沢ができるというわけでもない。子もいないので恐らく死ぬまで孤独に過ごすことだろう。

そんな男性との話を紹介したい。

本人証明できないもどかしさ

そもそもこの男性、30年前までは一流企業でバリバリ営業の仕事をしていたという。昼も夜もなく、都内を駆け回っていたということで、本人曰く「あの時代は比較的、誰でも仕事が取れた」という。まあ30年前と言えばバブル崩壊前夜頃だろうか。東京じゅうに好景気の波が押し寄せていた時期だろう。

ところが彼は、そのさなかにあって突然やる気を失った。きっかけらしいきっかけもなく、何故かある朝、突如として無気力になってしまったそうだ。もしかすると、今で言うところの鬱状態だったのかもしれない。

電池切れのようになってしまった男性は、仕事を辞め、ほどなくして当時住んでいた社宅を追い出され、15年ほどホームレス生活を送っていた。しかし、2000年頃になって変化が起きる。不景気のためか、配給を行う団体が減り、常に空腹に見舞われるようになったのだ。

そこで仕方なく働くことを決意。でもここで問題が生じていた。不景気になれば、誰もが仕事を求めて右往左往する。良いスーツを着て面接に望む。その際、本人確認書類を提出する機会も少なくない。ホームレス状態の彼には、これが大きな障害となった。

ホームレスに家はない。住所不定無職。住民票もない。だから面接に出向いても、怪訝な顔をされてしまうし、当然不採用。

面接を受けるどころではなく、結局はホームレス仲間の伝手で、日雇いの肉体労働に従事することとなったそうだ。

無保険だから体を壊すことはできない

この男性、今でこそ周囲の手助けでアパート住まいだが、保険に加入していない。そのため、病院に行けば負担額もかなり多い。これが彼にとっては目下の大きな悩みの種となっているのか……と思いきや、そうでもないようだ。

曰く「倒れたらダメってことは、倒れなきゃいいんだと」とのこと。

彼によると、病気をしないためには心持ちが重要だというのだ。「病は気から」を地で行くような生き方をしている。実際彼は貧乏なので、食事も質素。メタボになりようがないので、糖尿病の心配はないのかもしれない。また、日頃から日給10,000円の過酷な肉体労働に精を出しているため、実年齢の割には体つきもいい。

それでも保険がないのは不安だとは思うが、そもそも保険なんてものはここ数十年のうちに普及したものだと考えれば、なくても不自由はないそうだ。さらに、健康を維持するためには相応の努力をしているという。具体的にはお酒を控え、ストレスを溜めないなどが、その努力に当てはまっている。

彼は言う。

「むしろ保険に加入していると、
病院にかかっても3割負担で済むという気持ちの余裕が、
病気に対しての慢心を生んでんじゃないの?」

みんながみんなそうじゃないけど、そういう人もいるかもしれない。けれど、彼のような後がない人、失敗ができない人の声は何となく重みがある。

彼に夢はあるのか?最後に聞いてみた

ところで僕は、この男性と別れぎわに、ある質問をぶつけてみた。その質問とは「もう人生も終盤だけど、何か夢はありますか?」である。

男性はしばし目を閉じ、何かしら考え込んだ様子だったが、ゆっくりを目を開けて、こう言った。

「ない。夢がないから俺はこういう生き方をしちゃったんだな」

夢があるから人は勉強をし、夢に向かって励む。保険にも加入するし、年金も払おうと思える。しかし夢のない人にとっては、自分の人生すら博打。体を壊せばそれで「はいさよなら」となる、ということだろうか。

(文/松本ミゾレ・写真:Mix and Match / Shutterstock.com

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