他人の不幸は蜜の味というが、若者が不遇な目に遭っているのを見ていると、なんとも居たたまれない気持ちになってしまう。先日、とびっきり新鮮な不幸話を耳にした。思い出すだに悲しくなる話だけど、ちょっと皆さん読んでいっておくれ。
今日のお題は声優!アニメ好きな若者には不動の人気を誇るこの職業、今や需要に対して志望者が何十倍にも膨れ上がっているという。
そしてこの過剰な声優人気の影に、ろくな目に遭っていない若者が相当数いるようだ。
声優専門学校で多発するトラブル!
話は2016年の6月上旬にさかのぼる。秋葉原で仕事の打ち合わせが済んだ後、喫茶店でのんびり過ごしていたとき、隣に座った若い女の子2人の会話が耳に入った。1人は泣いている。
女の子が泣いているのに放置しておくわけにはいかない。「どうしたの?お腹痛い?ス◯ッパあるけど」と話しかけると、腹痛にあらず。
それならどうして泣いているのか聞き出すと、どうやら彼女は声優の卵で、ある声優専門学校に2年ほど通った挙句、卒業しても一切仕事の斡旋がなかったため、途方に暮れていたというのだ。
不幸話は飯の種。ここで僕は取材を申し込むことにした。一切知らなかったが、最近ではこうした、声優専門学校にまつわるトラブルはかなり多いようだ。
声優学校でぼろぼろになった2年間
とにかく、某日本一のお笑い事務所と同じく、来る者は拒まず精神で、まずは受け入れるというのだけど、そこの学校に通ったからといって、就業の確約はないという。
彼女の場合、2年間で諸々1,500,000円近い学費を投じたという。しかも半分は自分でアルバイトをして稼いだというのだから、大したものだ。
ところが、いざ入学してみると、そこはまるで人間動物園。
アニメの世界にどっぷり浸かってしまっているのか、言動がおかしい者。
教室でカードゲームに興じるばかりの者。
声の仕事をするための学校なのに、教室の誰もその声を聞いたことのない者。
まさに魑魅魍魎の世界であった。
当然、そういう学生に対してのカリキュラムというのも、そんなに実践的なものでもないようで、スキルには結びつかないものだった。
それでも、卒業時にこの学校から、大手事務所への人材の流入もあるかと期待していたというのだが、現実は甘くなかった。
入学時の説明では、業界就業率の高さを謳っていたにも関わらず、ほとんどの卒業生は、その後声優業界には飛び込めていない。
泣いていた彼女もそのうちの一人であった。本当に優秀な生徒もいたようだが、そういう生徒を除けばほぼ全滅という結果であった。
せめて養成所に通っていれば……
「声優学校に通ったのは、金銭的にも、将来への展望としても失敗でした」と彼女は言う。どういうことかと問うと、どうも声優になるための道のりはいくつかあるようで、学校に通うよりも、養成所を頼る方がまだマシだというのだ。
その理由はまず、お金の問題。声優学校はクソ高い入学金やら授業料やらが必須だが、養成所はそこまでかからないという。
おそらく1,000,000円を下回るケースがほとんどではないか、とは涙で目を腫らした彼女の弁だが、実際、僕も調べてみたところ、大手ですら諸々あわせて700,000円を切る場合がほとんどだった。
しかも、養成所の場合は大手の下請けのような立場の施設になっているので、優秀な新人が出れば、その都度事務所にアピールする機会も増える。
わざわざ他所の学校に出向いてオーディションなんかしなくても、ローコストで人材発掘ができるというメリットが、雇用側にあるようだ。
この点だけを抜き取っても、養成所に通う方が何十倍も利益があると思えてくる。まあ、実際には養成所は養成所で、色々と苦労が絶えないようだが。
声優を目指すのはかなりのハイリスク
夢を掴むためには、ある程度涙を呑むことも必要だろう。しかし、まったく就業の目処すら立たないような学校で、2年も時間を無駄にされたとあっては、さすがに号泣したくもなる。
件の彼女今後どうやって人生を立て直すのか。「まだ若いし余裕っしょ」とは、なかなか言い出せないほどの悲壮感が、彼女にはあった。
これを読んでいるあなたのお子さんがもしも「声優になりたい!」というのであれば、是非ともこのコラムを読ませてほしい。
(文/松本ミゾレ)