このところ、引越しを考えるようになった。
一人暮らしをはじめて今までに4回、転居を繰り返してきたが、引越しの費用を安く抑えるには、消去法のマインドが不可欠だ。
人間、理想を挙げればキリがなくなる。
やれ3LDKがいいだとか、やれ風呂は足が伸ばせるのがいいだとか、やれ都心へのアクセスも良好じゃないとダメだとか。
こういう理想を掲げていると、いつになっても……え!? 「都心部なのに家賃10,000円の物件があるだと!? しかも風呂とトイレも別だって!?」
心理的瑕疵物件ってなぁに?
みなさんは、心理的瑕疵物件という言葉をご存知だろうか。
建物自体にはなんらガタが来ているわけでもないものの、心理的に「ここはちょっと遠慮したいなぁ」と思える理由が付帯されている物件のことをこう呼ぶ。
たとえば暴力団事務所すぐそばで治安面に難があるとか、その物件で過去に入居者が不自然な死を迎えているとか。
こういうのを心理的瑕疵物件と呼ぶ。
不動産屋は、これらの物件についての告示義務があるので、知らないままお客を契約させることはできない。
僕の住んでいるアパート、それも隣室では、7年ほど空き室となっていた。
家賃も他の部屋より数千円ばかし安いんだけど、それでも入居者はなかなか現れなかった。
理由は、この部屋で過去に老人が孤独死したから。それだけならいいんだけど、その際の匂いがなかなか落ちず、また、フローリングにも人型のシミが目立っていた。
畳敷きの部屋なら、対処も楽なんだけどね……。
現在この部屋には、そのことを知った上で入居している男性が暮らしている。
心理的瑕疵物件とはこのように、相場よりも安い価格で入居できるが、一般的には敬遠される物件のことを指す。
同業ライターが見出した最高の事故物件
さて、冒頭の話に戻りたい。
僕の同業者の、食い詰め者ライターにFという男がいる。
彼はライターでありながら、自分の名前を記事に署名するのがイヤで、そのためにあまり継続的な仕事に恵まれない奇特な男だ。
このF、もっぱら誰も見向きもしないようなネタに食いつくところがあり、心理的瑕疵物件についての取材も、誰にも頼まれていないのに、よく行っている。
そのFが言う。
「もう入居者が決まったけど、新宿に家賃10,000円で、洋室と和室2つ付いた最高の物件があるぞ」
どういうことか聞いてみたところ、極端な話、そこで過去に自殺があり、その後幽霊が出るようになったというのだ。
相場で言えば家賃も100,000円以上という立地なんだろうけど、あまりに幽霊が出まくるため、どんどん価値は下落。
その間も安さに釣られて大勢の入居希望者が殺到したが、みな1ヵ月も持たなかったという話だ。
では、現在入居している人物はどんな人間なのかというと、これがFにもよく分からないという。
まあ、普通は入居者のことまで調べる馬鹿はいないという話なんだけど、そうではない。Fは頭が少しおかしいので、これまで入居者についても調べていたという。
しかし、今回の入居者は、なんというか、調べる気になれないというか、Fをしても「調べるのが怖い」というのだ。
不思議な話だが、Fのような面倒な男すら近づけない、何か素晴らしいオーラみたいなものがあるのかもしれない。オーラなんか信じないけど。
事故物件は全国各地に!さあ、幽霊と同居しよう!
心理的瑕疵物件は、日本中に存在している。
なんせ日本では、分かっているだけでも年間30,000人もの自殺者が発生している。
自殺する者の中には、自宅で命を絶つ者も多い。
狭い日本の土地の中に、年々どんどん心理的瑕疵物件は増えているのだ。
そしてこういう物件はやっぱり安い。
何事も、安いが一番!
引越しを考えているのであれば、事故物件を探してみるのも悪くないだろう。
僕は……そもそもお金に不自由していないし、普通の物件がいいかなぁ。
(文/松本ミゾレ)