日本は学歴社会の時代は終わったといわれていますが、それでもまだまだ高卒者と大卒者では所得の格差があり、学歴社会の名残を今に残しています。
そんな中、高校を卒業してすぐに就職する人や、大学に進学する人など、人それぞれではありますが、入れるなら大学に行きたいという人は多く、多額の教育費用を費やして大学に通っている人がたくさんいらっしゃいます。
一方で、高校卒業後すぐに就職していれば、大学生が在学中にお金を稼ぐことができるため、大学へ進学した場合の在学期間は投資機会であり、授業料などの学費は投資費用だと考えることもできます。
この記事では、大学進学を投資と考えた場合のお金の事情について分かりやすく解説いたします。
まずは実態を知ろう!大学進学と年収の関係性
あなたはこのようなことを言われたこと、もしくは言ったことはありませんか?「良い大学に入って良い企業に就職しなさい」と。つまり、学歴が経済的安定をもたらすという理屈です。
反面、企業の存続寿命が個人の労働寿命を下回るというニュースを耳にすることもあります。もしそうだとすると、良い大学に入って良い企業に就職しても、経済的安定は得られないことになります。
では、大学進学は本当に投資となるのでしょうか?それとも投資には成りえないものなのでしょうか?まずは大学進学と年収の関係性についての実態から見て行きましょう。
学歴と年収は関係性はあるのか
2012年に調査が行われた「ユースフル労働統計:労働統計加工指標集」には、男性と女性の学歴別の生涯年収平均値データが紹介されています。
それによると、
- 中卒男性の生涯年収は1億7,130万円
- 女性は1億1,050万円
で高卒に学歴が上がると
- 男性が1億9,040万円
- 女性が1億2,470万円
と年収も上がることが分かります。大学や大学院卒となると生涯年収は大幅に上がり、
- 男性が2億5,180万円
- 女性が1億9,930万円
となり、学歴と年収には相関関係があることが分かります。
最終学歴別生涯年収(ユースフル労働統計-労働統計加工指標集-2012)
中卒(男性) | 1億7,130万円 |
中卒(女性) | 1億1,050万円 |
高卒(男性) | 1億9,040万円 |
高卒(女性) | 1億2,470万円 |
大学・大学院卒(男性) | 2億5,180万円 |
大学・大学院卒(女性) | 1億9,930万円 |
企業の存続寿命が個人の労働寿命を下回ったとしても、転職や独立など、何らかの方法で収入を得て生活費を稼がなくてはなりません。
その結果、全体的には学歴の高低が収入の大小に影響を及ぼしているようです。
高卒の方が生涯収入の伸び率が高い
学歴が高い方が高収入を得やすいという結果であることがお分かりいただけたと思いますが、生涯所得の格差は徐々にではありますが狭まっているというデータもあります。
内閣府が発表している「高卒と大卒の生涯所得上昇率の推移」によると、1970年生まれの大卒者の生涯所得と、1975年生まれの大卒者の生涯所得では、後者の方が2.8%上昇しています。
同様に、1970年生まれの高卒者と1975年生まれの高卒者を比べると、後者が3.2%上昇しています。つまり、わずかながら高卒の生涯所得が大卒に近づいているということが分かります。
1970年生まれから1975年生まれでの生涯年収上昇率(内閣府)
高卒 | 3.2% |
大卒 | 2.8% |
大学進学による投資収益率は落ちている
大学に進学することは、生涯収入の増加につながり、結果的に大学進学は本人にとっての利益となるといえるでしょう。
ただし、大学進学を投資とみなした投資収益率は減少傾向にあることにも注意が必要です。
投資収益率は、教育関係費が賃金として戻ってくると考えた時の収益率を指します。計算方法はあまりにも複雑なので割愛しますが、数字が大きいほど収益率は高いとだけ押さえていただければ結構です。
内閣府のデータによると、投資収益率は
- 1965年生まれが6.1%
- 1970年生まれが6.0%
- 1975年生まれが5.7%
と右肩下がりとなっています。
大学教育の投資収益率(内閣府)
1965年生まれ | 6.1% |
1970年生まれ | 6.0% |
1975年生まれ | 5.7% |
親が考えなければならないこととは?
ここまでマクロ(大きな)視点でさまざまなデータを紹介して来ましたが、親の立場でこれらのデータを見た時に、一体どのようなことを考えるべきなのでしょうか?
親はマクロデータを参考にしつつも、ミクロ(小さな)視点で幅広い対応ができるように準備しておく必要があります。
というのも、いくらマクロデータが高学歴が高収入につながると明言していても、あなたのお子様に当てはまる保証はありません。
偏差値の高い大学に進学し、大企業に就職して安心していたのに、入社1年で辞めてしまう可能性もあります。
逆に、学歴の低い人が独立をし、一気にお金持ちになる可能性もあります。マクロデータは「確率」を表現しますが、ミクロな情報に落とし込む時には「可能性」に配慮しておく必要があるでしょう。
では、具体的に親はどのようなことを考えておく必要があるのでしょうか?
子どもの選択肢のための教育資金の捻出
親ができることとして、最初に重要なことは選択肢を用意してあげるということです。
マクロデータの「確率」に配慮するのであれば、高学歴が高収入につながるわけですから、大学に進学できるように教育費を捻出しておく必要があります。
学資保険や定期預金などで教育資金を貯えておき、どうしても足りない場合には教育ローンなどの知識も付けておきましょう。
もしも本人が進学を選ばなかったり、進学して就職後にすぐ辞めたとしても、それは本人の問題ですので、親が関知する必要はありません。
しかし、進学したいのに経済的事情で選択できない場合には「可能性」を奪ってしまうことになります。マクロを参考にしつつミクロへの準備が必要です。
転職による経験の蓄積も大切だとの教え
この記事の前半で、「企業の存続寿命が個人の労働寿命を下回るというニュースを耳にする」と紹介しました。このことは生涯に1度は転職するということを意味しています。
転職をした場合には、ひょっとすると学歴の影響がストップする可能性があります。なぜなら、新卒採用時の履歴書は在籍大学の名前が直近の経歴となりますが、転職の場合には前職の会社名や仕事内容が直近の経歴となるからです。
転職では即戦力を問われるため、大学がどこだったかはどこの幼稚園に行っていたかと同程度の基準でしかありません。
そのため、転職を見据えてスキルアップするか、転職をしながらノウハウを蓄積していくということが今後の選択肢を増やす上でとても重要です。
成人している会社員に対して親の責任はないのかも知れませんが、責任ではなく家族の役割として、このようなことを教えてあげることも良いのではないでしょうか。
まとめ
学歴と生涯年収の間には相関関係が存在することは、データがしっかりと表してくれています。学歴社会が崩壊したといわれている現代社会においても、高学歴の人ほど高収入になる傾向にあるようです。
しかし、企業の寿命が個人の労働寿命を下回っているという事情もあり、転職を前提とした労働スタイルに拍車がかかる可能性は否めません。
大学進学による投資収益率が落ちてきていることからも、今後は学歴と生涯年収の相関関係が崩れる可能性もあるのではないでしょうか?
そんな中、親が考えなければならないことは、どのような状況になったとしても、多くの選択肢を保持できるということだと思います。
確率と可能性の区別を付けて、子どもの可能性に対する準備をしておきましょう。