世帯別に経済的ゆとりを表す指標はさまざまなものがあります。そのなかで、今回取り上げたい指標がエンゲル係数です。
収入のうち食費が占める割合を表すデータですが、最近では実態にそぐわないという意見も挙がっています。では、なぜ、エンゲル係数が現代社会に不適合と言われるのでしょうか。
高所得者と低所得者の差はわずか4%
所得の増加に伴い、エンゲル係数は徐々に低くなります。これは、社会科の授業で習った記憶がある方も少なくないはずです。
しかし、『平成26年(2014年)総務省家計調査』のうち「二人以上の世帯のうち勤労者世帯」を見ると、世帯収入436万円以下の家庭(エンゲル係数24.5%)と世帯収入906万円(20.4%)では、わずか4%しか差がありません。
4%という差を見ると、「エンゲル係数と食費はあまり関係ないじゃないか」と感じる人も多いと思います。どの収入層の家庭だったとしても、20%程度の支出となっていれば問題ないように見えるからです。
しかし、この4%というわずかな差の中には、大きなマジックが隠されています。実は、これが「エンゲル係数が現代社会に適さない」と言われる所以です。次の項目で詳しく見てみましょう。
外食費が含まれるエンゲル係数
エンゲル係数は、収入における食費の割合を示しています。しかし、食費の内訳には外食費や酒代、お菓子代も含まれていることは見逃せません。これは、どういう実情があるのかを見てみましょう。
まず、エンゲル係数が考案された当時、基本的に食費は生きるためのコストでした。しかし、外食産業が活発化し、コミュニケーションのための飲み会や食事会が増えています。
例えば、仕事の接待や友達との懇親目的があると思いますが、これらは生活のための食費ではありません。したがって、エンゲル係数の本質的な目的とはそぐわないのです。
実は、最初に取り上げた世帯年収436万円の世帯と世帯年収906万円の世帯について、外食費を差し引いて比較すると、前者の世帯が27.6%だったのに対し、後者は10.1%しかありませんでした。
100%正確な指標ではありませんが、外食費が大きく影響していることがわかるはずです。
食に対する満足度、世代別の特徴
今の時代、食に対する満足度を求める人は増えています。例えば、オーガニック食材を使うことで安心感を得たいというご家庭も少なくありません。「外食で、おいしいものを食べたい」と思うのも自然な考え方です。
エンゲル係数が食費の4割、5割と増えてしまうのは一考の余地がありますが、2割を基準に多少の差異が出るのは問題ないと思います。
また、エンゲル係数は所得だけではなく、世代別で多少のギャップが生まれています。子供を持たないまたは子供が幼い家庭が多い20代は、エンゲル係数は低くなりがちです。
貯蓄や趣味、交際費に使うケースも少なくないので、食費へ充てるお金が減るという仕組みです。一方、40代から50代になると、子供が大きくなっているご家庭も多いため、エンゲル係数は高くなりやすいと言えます。
なお、近年はエンゲル係数が異常に上昇しているというデータがあります。しかし、年金受給世帯である高齢者が増え、収入に対する食費が増えているだけに過ぎません。
すべてのご家庭でエンゲル係数が増えているわけではなく、適切な支出(25%以内)で収まっているかどうかを確認し、問題がなければそれでよいでしょう。
エンゲル係数を時々チェックしてみよう
毎月家計簿をつけている人は意識しているかもしれませんが、エンゲル係数が高いかどうかを考えずに生活している人もいると思います。時々チェックするとご家庭の支出が想像でき、今後の参考になるはずです。
「たまに」でよいので、ぜひエンゲル係数を見てみてはいかがでしょうか。
(文/三堂有人)