ご存知の方も多いと思うが、たとえ両親がA国の出身であっても、その両親がB国で子供を産んだ場合、法律によってはB国の国籍を取得しても良いという国が、世界にはいくつかある。
本来ならばこのような法律は大した問題になることはない。局所的にそういうことがあっても、あくまでニッチな事例であって、問題は起きないと考えられていた。ところがこのところはそうとも言い切れない状況になっているようだ。
米国籍を取得させるため、自分の子供をアメリカで出産する中国人が増えているというのだ。
中国からやってくる妊婦、その目的とは?
アメリカでは、親の国籍に関係なく、そこで生まれた子は全員アメリカ国民になれるという法律がある。いわゆる血統主義ではなく、出生地主義の国として広く知られてきた。
外国人がアメリカに入ってきて、そこで子供が生まれた場合、子供はアメリカ人ということとなり、その子供が成長したら、両親がこれを頼ってアメリカで暮らすというモデルケースが、しばしば保守系市民から問題視されていた。
まるでよそからやって来た船が錨を下ろして係留するように思えることから、これをアンカーベイビー(錨の赤ん坊)問題と呼ぶそうだ。元々はヒスパニック系の不法移民がアメリカに留まるための手口として活用していたようだが、最近では中国人のアンカーベイビーが増えているという。
その目的は、中国での制限の多い生活からの脱却だ。
中国では子供も好きなように設けることができないし、インターネットの閲覧も厳しく制限されている。「だったら自由の国アメリカで子供を産み、子供にアメリカ国籍を」と考える中国人は決して少なくない。
現に数年前より、中国人の妊婦が観光ビザで入国し、年間3万人もの子供を出産しているのだ。昨年3月にはこのようなツアーが捜査、検挙されるなど、対策は徐々に講じられつつあるが、未だに抜け道は多いようだ。
費用もさほど高くない
現在、中国ではアメリカへ観光目的と偽り、出産の斡旋をする業者が少なくない。この費用はおよそ1人10万元程度となっている。日本円にすると165万円となっており、決して高いわけではない。
なにより、自分の子供をアメリカ国籍にしたいという、一種のブランド志向を持つ母親は少なくないようで、だからこそこのアンカーベイビー問題は根深く影を落としているのだ。
アメリカで生まれただけで、アメリカ国籍を容易く取得してしまえば、それだけでアメリカ国民としての権利という恩恵を得ることができる。仮に大勢の中国人が同じ方法で流入すれば、自治体でコミュニティを形成して、自分たちのための法案を要求する動きを引き起こす可能性もある。
保守派はここに強い危機感を抱いているようだ。
実際、ニュージーランドでも、自国で生まれた子供はたとえ外国人の子供であっても自国民として国籍を与える法律を制定していたが、2006年にこの法律を撤回した。
原因はもちろん、他国から国籍目当てで観光を装って入り込む妊婦のたくらみを防ぐだめであった。
アメリカよりも国力の乏しいニュージーランドのことだ。こういった対策は必須だったのだろう。
アンカーベイビーに悩む世界最強の国
アメリカは未だに世界でも有数の国力を有した強大な国家であり、国民の愛国心も強い。この結束を、よそから入ってきた移民の子に乱されたくはないという思いが強まることは、今後間違いない。
一方で、日本のように人口が減少傾向にあり、高齢者だらけの国はと言うと、正直移民の受け入れもアリという声もチラホラ聞こえてはいる。もっとも、こちらもやはり保守派にとっては「冗談ではない」という話だろうし、そもそも衰退する一方の日本に訪れたいという外国人が、今後増え続けるとも思えない。
(文/松本ミゾレ)