現代人が旅行への関心をなくしている。
博報堂生活総研が2014年、首都圏から阪神圏の約3,200名を対象に『どのような情報に関心を持っていますか?』というアンケートを実施。これに「旅行」と答えたのは約3人に1人だったのだ。
この人数は一見すると多いようにみえるが、じつはここ10年で最低の数値。いったいなにが起こっているのだろうか。
旅行費用の総額は増加
人々が旅行への関心をなくしている一方、旅行1回の費用総額(現地小遣い/宿泊交通費)は3年連続で増加しているらしいことが、国内旅行サービス最大手の「じゃらん」が2015年に発表した、『2014年度宿泊旅行調査』によって明らかになった。
費用の具体額は、大人1人あたりで49,200円。前年度より2,400円も増えており、2009年度以降では最多額とのこと。しかし同調査によれば、宿泊旅行の実施率および実施回数はともに減少傾向にある。
つまり、旅行費用の総額が増加しているのは旅行単価が上昇しているからであって、決して1人ひとりの旅行頻度が増えているわけではないのだ。
実際、全旅行者の旅行費用内訳をみてみると、そのことが一目で分かる。
【旅行費用内訳】
・現地小遣い
14年度:16,400円 / 13年度:16,000円 / 12年度:17,000円
・宿泊交通費
14年度:32,800円 / 13年度:30,800円 / 12年度:30,600円
また同調査では、「旅行実施者の1年間の旅行実施回数は2.79回」という結果も出ていた。
これをもとに考えれば、年間の旅行費は大人1人で「約138,000円」にも上るわけだが。
年に1度の旅行を楽しむ人が多いのか
じゃらんの発表とは異なる結果を示した調査がある。それは総務省が発表する『2014年度家計調査』。
同調査によると、レジャー関連(パック旅行費/宿泊費/入場・観覧・ゲーム費)の年間平均支出は約10万円(2人以上の世帯)、国民の平均年収層だといわれる300万円~500万円未満に絞ってみると約81,000円だった。
さらに上記は2人以上の世帯の調査結果である。仮に最少人数の2人に設定しても、1人あたりの年間旅行費は約4万円~5万円にしかならない。
現地の小遣いや宿泊交通費を考えると、1回の旅行で使い切ってしまいそうな金額にみえる。
ここからいえるのは、じゃらんの言う「年に何回も旅行に出かける」はかなり少なく、「年に1回だけ旅行に出かける」のほうが多いのでは、という仮説だ。
旅行1回の費用総額がピッタリ当てはまっているところをみると、旅行回数についてはおそらく一部の富裕層か、旅行好きの人々が数字を跳ね上げているのだろう。
年に1回はなぜ?
とあるサイトで旅行ジャーナリストの村田和子氏が次のように言っていた。
――「旅の分野では、必ずしも高ければいいというわけではない、という風潮の高まりを感じる。値段以上に自分の欲求とのマッチングが重視されている気がする」
このご時世では、そのような傾向が間違いなくある。たとえば、近年はネットの普及によって、自分が求める情報をいくらでも集められるようになっているし、よくいわれるように節約を考える人は増えている。
要するに、お金をかけなくとも生活が豊かになる方法を知っている、もしくは常日頃から探しているわけだ。
結局は興味関心の多様化か?
1回の旅行だけで、自分の欲求を満たしている人は多いのではないだろうか。そう考えると年に何回も旅行に出かける人は、ほんとうの意味での旅行好きといえそうである。
ただひとつ、現代人が旅行への関心をなくしているというスタートだったが、家計調査から分かるようにかなりの割合が年に1回は旅行に出かけていることが分かった。
関心をなくしているというよりもそれが当たり前になっており、今は自分の好きなことに興味がある、というだけなのかもしれない。
(文/吉松京介・エストリンクス)
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