お薬手帳とは?
もともとは病院や薬局で無料サービスとして提供されていた患者の処方薬を記録する手帳である。
2000年の診療報酬改定では医薬分業による医療費削減効果や薬価差益の見直し、複数の薬を同時に服薬することによる副作用の回避などを目的に薬局に対して調剤報酬が支払われる国の制度となった。
患者側にはこの手帳を病院や歯科医院、リハビリ施設など、さまざまな医療機関にて提示することにより万一の事故を回避することができるというメリットがあり、また薬局側には手帳による情報提供に対する対価として「薬剤情報提供料」を受け取ることができるようになった。
当時は、希望する患者にのみ算定できる制度であったが、2012年の震災後、薬剤情報提供料は廃止され、患者の服用履歴を記録・指導する「薬剤服用歴管理指導料」に一本化された。
薬局がこの薬剤服用歴管理指導料を受け取るには以下の条件を満たさなければならない。
- 薬剤情報提供文書の提供と説明
- 薬剤服用歴の記録とそれに基づく指導
- 残薬の確認
- 後発医薬品(ジェネリック医薬品)に関する情報の提供
- おくすり手帳への薬剤情報の記載
上記5項目すべてが満たされれば医療報酬41点、1点10円として薬局は410円を受け取れる仕組みだ。
患者次第で20円安くなるとはどういうことか?
手帳の給付自体は無料だが、薬剤師による服用薬の記載は有料。お薬手帳の利用によって発生する費用は70円であり、患者が70歳未満で医療費3割負担であれば本人の負担は20円ということになる。
薬局側にしてみれば1回たかが70円といえども月に1000件と考えれば7万円、これは年間では84万円にもなるから馬鹿にはできない金額だ。
それゆえ、なかには患者に適切な指導を行うという本来の業務を全うせず、シールを添付した新しいお薬手帳を勝手に作成し、薬と一緒に袋に入れておもむろに患者に渡す悪徳薬剤師も存在するようなので気をつけなければならない。たかが20円、されど、である。
「薬剤師法第一条」では、薬剤師の任務を次のように定めている。
薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによつて、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。
節約により効果的なのはジェネリック医薬品の利用
高齢者や長期の疾患で定期的に来院する人であればお薬手帳を利用しないことで年間数百円ほど浮くかもしれないが、節約という観点から見ればジェネリック医薬品への変更が効果的だろう。
処方箋の「変更不可」欄に印がなければ薬剤師さんに頼んで成分・効能が全く同じでもより安価なジェネリック医薬品を購入することが可能なのだ。服用頻度や副作用などが異なることもあるのでわからないことは薬剤師さんに積極的に相談してみよう。
そのほか時間外の調薬には別途料金が加算されるので、これも気をつけたいところである。
海外にもお薬手帳はあるのか?
私の住むイギリスにはお薬手帳のようなものは存在せず、データはすべてコンピューターで管理されている。また、NHSとよばれる国民健康保険制度によって医療費は無料となっている。
一方処方薬のほうは1種類につき一律8.2ポンド(約1,560円)である。10錠だろうが60錠だろうが、小さなチューブに入っていようが大きなボトルに入っていようが一律8.2ポンド。合理的なのか大雑把なのか。
たとえば風邪をひいて病院に行くと、「帰りに薬局で解熱剤を買って、家で安静にしていてください。」と手ぶらで帰される。というのも、イブプロフェンなどの解熱剤・鎮痛剤は一箱16錠入りで15ペンス(約30円)で市販されているからだ。「薬漬け医療」が問題視される日本とは大きな違いである。
今やお薬手帳はスマホのアプリで利用可能に!
「わざわざ手帳を持ち歩くのが面倒くさい」「すぐ失くしてしまいそうだ」という人にはスマホのアプリの「お薬手帳プラス」を利用するという手もある。
紙のお薬手帳と同様に使えるほかアラーム機能で服用時間を知らせてくれたり、カレンダー機能で飲み忘れた日をチェックできるなど便利な機能が満載だ。
お薬手帳は健康状態が概ね良好な若者にはほとんど無意味ともいえる制度だが、リラックマなどのキャラもの、ワンピースなどアニメ系、またご当地キャラなどさまざまなデザインが発行されており、女性や若年層を狙った実にうまい戦略といえる。正直私もひとつ欲しくなった。
病院に行くほどでもないが、辛い症状をなるべく早く緩和したいというときに薬局は便利な存在だ。ぜひ信頼のおける「かかりつけ薬局」をひとつ持っておこう。20円で安心が買えるなら安いものである。
(文/森野万弥)