日本の企業における終身雇用制度はまだ維持されているとはいえ、特に若年から中堅の社会人の間では、転職を考えることはかつてほど「後ろめたいこと」ではなくなっています。
特に、働き方、仕事内容、働く国なども多様化し、かつそれらの情報も比較的とりやすくなっていることから、「本当に自分のしたい仕事」を求めて仕事を変わるという流れも増えています。
また一方では、結婚や出産など、人生のイベントのタイミングでの退職や転職も、それが理由による場合は少なくはなっているものの依然としてあることです。
そこでここでは、転職はどのような時期やタイミングで行われることが多く、そしてそのために前もって準備できることは何か、という点についてご紹介します。
転職を考えるタイミング
まず、人はどのような時に転職を考えるのでしょうか。それは大きく言って、以下の6つのタイミングがあります。
1 時期によるもの
1つは時期によるものです。
もともと転職を考えていて、それを仕事の切りのいい年度末や、ボーナスをもらった後などに実行する場合です。取り組んでいた大きなプロジェクトや案件が終了したから、という場合もあります。
2 職務変更のタイミング
次に多いのは、自分の仕事が会社の方針で変わる場合です。1番大きいのは人事異動の内示を受けて、それが意に沿わない場合転職を決意するということでしょう。転勤もそれに類するタイミングです。
また、場合によっては昇格や降格もそれに入ります。降格はあるとしても、レアケースですが昇格で転職を考えるのは、自分はプレイヤーとして現場にいたいので管理職になるのは断り転職する、ということで決断する人です。
3 ライフイベント
特に女性の場合多いのは、ライフイベントを機に退職、または転職するケースでしょう。結婚、出産などで、専業主婦になる人もいますが、それまでの仕事が激務で家事との両立、育児との両立が難しいため、それができる仕事に転職する、というケースです。
また親の介護をすることになった、親の事業や商売を継承することになった、という理由もあります。
4 次のキャリアアップの準備が整ったタイミング
最近増えてきているのが、自分のキャリアアップを考えている中で、それを実現できる環境が整ったタイミングで転職するケースです。
たとえば、資格を取得した、TOEICで高得点を獲得したなどは、もっと高いポジション、もっと高い収入、自分の本来したかった仕事にチャレンジする踏み切り台になりますので、そのタイミングでの転職をする人も多いです。
5 外部からのオファー
自分は転職を意識していなくても、外部から誘われたことで決断する場合もあります。
ヘッドハンティング、スカウトなどは最近非常に増えていますし、あるいは知り合いからの誘われて、ということもあります。
6 年齢
転職市場には「35歳限界説」というまことしやかな転職年齢の年齢上限説があります。実際にはそのような一律の上限などはありませんが、自分で何とかその年齢のうちに決めたいと思う人は相変わらず多いです。
また現実問題として、第2新卒扱いが終わる25歳や、転職によって年収が下がるケースが増える45歳、役職定年の55歳をメドに転職する、という場合もあります。
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とは言え、多くの転職者の例を見ていると、事前に入念な準備をし、数年の時間をかけて転職していくというケースは少なく、むしろ転勤を言われたので数日で決断した、などの方が多いのが実態です。
しかし、転職は大きな人生の岐路ですので、もしも何が何でも今の会社に定年までいるという意思を固めているのではない限り、事前に「その時」に備えておくことは重要です。具体的には以下の点を行いましょう。
自分の将来設計、望ましい人生を考える
アメリカの経済学者であり社会学者の泰斗であるP・ドラッカーは「自分が後年どのように思い出されたいか、という観点で仕事の仕方と努力の方向を考えるべきだ」という内容のことを言っています。たとえば
- 「マーケティングの専門家だった」
- 「企業立て直し人だった」
- 「卓越した世界人だった」
などです。そのような大仰なことではなくても、自分はどのような仕事をしたいので、何のスキルを身につけどのような職場で働きたい、というような将来設計は、1度じっくり考えてみることをおすすめします。
仕事の棚卸しをして面接が受けられる準備をする
また、すぐに転職活動をしなくても、その準備はある程度しておいた方がよいでしょう。
具体的には以下の点について整理をしておくと、仮に急な採用面接を受けることになっても、あるいは職務経歴書や履歴書を書くことになっても、戸惑うことは少ないはずです。
- 今まで取り組んだ仕事の整理、その際の成果の明確化
- 仕事や会社への不満など、転職を決心した理由の明確化
- 自分がどのような仕事に向いているかの適性について客観的な判断
- 新しい会社、仕事を選ぶにあたって、年収なのか、ポジションなのか、仕事内容なのかなど、自分の中の優先順位の整理
自分を高く売るために付加価値を付けておく
転職活動は「転職市場」という市場で「自分」という商品をいかに思ったように高く「売り込む」か、ということに例えられます。そのためには、自分に付加価値を付けて、市場価値を高めておく必要があります。
具体的には以下のことをしておきましょう。
- 将来したい仕事に関連したスキル取得や資格取得
- その仕事に関連した専門知識の習得、レベルアップ
- 営業であれば、得意先との信頼関係を築き、仮に転職した場合、その得意先を引き抜ける準備
転職エージェントからのスカウトを待つために
また、自分から積極的には転職活動をしなくても「いい話があれば」と思っているのであれば、転職エージェントのコンサルタントからスカウトの連絡が入るように、「転職市場」に自分を「陳列」しておくことも重要です。
たとえば、転職サイト・転職エージェントへの登録、あるいは紹介で転職の話が入るように、業界内や異業種での人脈づくりなどです。
例えば、業界トップクラスの求人数を誇るリクルートエージェントでは転職サイトに掲載されていない非公開求人の紹介や、言いだしづらい年収交渉まであなたに代わってサポートしてくれます。転職エージェントからスカウトの連絡がくるように登録だけでもしておくとよいでしょう。
安定収入のめどをつける
また、転勤の内示を断って転職を決意したなどの場合は、次の仕事が見つかる前に退職することになる可能性もあります。
その時に、収入的な脆弱さがあると、焦って望まない仕事で妥協してしまったり、自分を安売りしてしまう可能性がありますので、ある程度、数か月収入がなくても生活できる準備をしておいた方がベストです。
具体的には、以下のチェックポイントを確認しましょう。
- 転職によって金融機関からの借入金に影響は生じない
- 仕事が変わっても、住宅ローンの返済についても問題はない
- 無職の期間があってもその間の生活を維持できるだけの蓄えがある
- 転職先意向での転居ができる
- 寮や社宅を退去することになっても、住居が見つけられる資金がある
- 転職しても、子供の進学や結婚には影響しない
- 多少の年収ダウンがあっても、生活は維持できる
普段から情報収集をして自分の市場価値を確認しておく
また、実際のところ転職市場でどの程度自分に「買主」が現れるかを知っておかないと、いたずらに高望みをしていつまでも転職先が決まらない、というケースも生じます。
そうならないように、転職市場での自分の価値を客観的に把握しておきましょう。具体的には以下のような観点です。
- 希望する業界の中途採用の求人動向はどうなっているか
- 希望する職種の求人案件の数はだいたいどの程度か
- 自分の年齢を求人要件で受けいれる企業の求人案件は多いのか少ないのか
- 自分のスキル、キャリアが社外でどの程度通用するのか
家庭の問題をクリアする
またこれは転職することを決断する直前に話をすることがほとんどでしょうが、事前にメドをつけておくのが必要なのは、家族の了承が得られるかどうかです。
それは自分の配偶者や家族だけではなく、場合によっては配偶者の両親などから反対される可能性もありますので、それをクリアできるかどうかは考えておいた方がよいでしょう。
制度上不利にならない勤続期間を満たしているか確認する
勢いで転職や退職をしてしまって、あとでしまったと思うことがあります。たとえば、
- 何かの資格試験を受ける資格としてのその仕事の就労期間に数か月足りなかった
- 雇用期間の関係で雇用保険の受給資格や給付日数に影響してしまった
- あと数か月先に退職しておけば退職金が満額もらえる勤務期間だったのに
などです。そのようなことのないように、さまざまな制度の恩恵を受ける上で十分な勤続期間を満たしているかを確認しておきましょう。
まとめ
いかがですか。
転職は人生の大きな岐路ですが、しかし意外にその岐路は突然やってくることも多いのです。
ですので、可能な限り自分のビジネスマン人生をシミュレーションして、事前に準備をしておくことが、不利にならない転職をするためには非常に重要なことです。ぜひ、以上を読んで検討してみましょう。