職業には貴賎がない。
どんなに収入差があろうと、その仕事で誰かが喜び、感謝するのであれば、それは立派な就労であると、個人的にはそう考えている。
しかし、何事にも限度があるというのもまた事実。
その労働がどんなに素晴らしいものであっても、働いている当人が、半ば人権を無視されたかのような扱いと、スズメの涙程度のお給金しかもらえていないというのであれば、話は別だ。
今回は、劣悪な環境で働く人々の中から、ITドカタと呼ばれている人物たちに注目したい。
そもそもITドカタって?
ご存知のように、ドカタという単語はマスメディアは利用しない。
土木作業やら建築に従事している作業員の、別称だ。
これが差別用語にあたるのだというが、僕が知る限り、自分のことをドカタと呼んでいる作業員も多い。
だからここでは敢えてドカタという言葉を当たり前のように多用する。
昨今では、インターネットも発展してきた。
そのため、これらのシステムを管理、構築する仕事に就く人々も多い。
システムエンジニアなんて呼ばれているが、そんな人々の中には、苦役を強いられて今にも潰れそうになっている、ITドカタなる肩書きの方がいる。
今回は自らをITドカタという肩書きで呼ぶ、都内在住の30代女性、Oさんに話を聞くことができた。
現役ITドカタを直撃!そしてドン引き!
さて、この呼び名はしばしば耳にすることがあるものの、筆者はあまりITドカタについて明るくない。
まずはその定義を聞いてみた。
「ITドカタっていうのは、業界でも一番下の序列にいる人々のことです。
中抜きされて、さらにまた中抜きされて、ほとんど搾りカスみたいな報酬しか発生しない仕事ばっかり回ってきたり、単純作業の繰り返しを延々やらされたり。
たまにソフトを作っている時なんて、何日も帰れないこともあるんです」
とのこと。
なかなかに地獄の様相を呈している環境に置かれているようだ。
しかもそのような地獄を乗り越えて得られる給料も、かなり低いという。
「私の場合、残業が100時間超えるのが毎月当たり前なんです。それでも手取り300,000円行かない。
もっと可哀想なのが、ITドカタチームの最下層の人たちです。
単純な作業しかできないってのも影響してるんでしょうけど、残業もそれなりにやって、月収140,000円というケースがありました。
唯一の救いは、家に帰れない日が多いので、電気、ガス、水道代が安いということだって言ってましたけど、さすがに同情します。
まあ、私だって同情されたいんですけど」
ITドカタ最大の試練、デスマとは?
さらにOさんは、ITドカタ特有の地獄について話を聞かせてくれた。
そう、それが悪名高い、デスマである。
「私たちのチームの力が足りていないってのもあるんでしょうけど、単純にいっつもキャパ外の労働量なんですね。
こういう状態だと、私も一応女ですが、いちいちお風呂にも入れないし、化粧もできない。
だから本当にイライラしながらやってますね。業界ではこれをデスマーチ、デスマと呼びます。死の行進というわけです」
死の行進なんて、バターンのアレしか知らなかったが、こういうことが常態化していたとは。
しかしこれって全く特殊なケースではないようで、あらゆるITドカタが経験していることと言うから、驚きだ。
時には3日以上ほとんど不眠不休の作業をしていたため、頭がおかしくなったり、いるはずのない者が見えるようになる人もいるという。
かく言うOさんの場合、50時間連続で作業をしていたときに、突然タイピングのやり方が分からなくなり、次の瞬間、両手の指の動かし方まで忘れてしまったそうだ。
幸い一眠りしたらまた動くようになっていたと言うが、その後もさらに作業を継続したとのことなので、まさに想像を絶する世界である。
ITドカタなしでは成り立たない業界は異常
システムエンジニアの中には、毎日残業しまくってもほとんど貯金できない程度の給与しかもらえないばかりか、心身ともに甚大な悪影響を受け続けている人もいることがよく分かった。
どんな仕事も、誰かの役に立つ。
しかし、命を削ってまでするようなレベルの仕事なんて、世間にはそうそうない。またそんなことをする必要もないはずだ。
ITドカタと呼ばれる人々がいなければ成り立たない業界など、とっくのとうに破綻してしまっている。
そんな業界は異常なのだ。
Oさんは最後、ポツリと呟いた。
「こんな仕事をして、食事も不摂生で睡眠も削って、早死に間違いなしですよね。
肌もボロボロ。髪の毛もたくさん抜けてきてるし……結婚、したかったなぁ」