Facebookにアップしたこちらの投稿にあるとおり、昨日夜に丸の内ピカデリーで開催された完成披露試写会におじゃましてきました。
舞台挨拶では主演の阿部サダヲをはじめ、瑛太、妻夫木聡、背中の大きく空いたドレスがとてもよく似合っていた竹内結子、ジャニーズかと思うほど黄色い歓声を浴びていた千葉雄大、寺脇康文、半分司会になっていたきたろう、最後まで素の自分を見せなかった西村雅彦など、ほぼ全員、主役級の俳優・女優たちが目の前にズラッと並び、全員分のオーラを存分に浴びてきました。
とはいえ試写会なので、上映もしっかりと鑑賞してきましたので、ここでは普段のHOW MATCHのメインからはちょっと逸れまして、いち映画好きに過ぎない私がこの映画「殿、利息でござる!」を好き勝手に、かつ率直にレビューさせていただきます。
上質な食材、一流のシェフ、もったいないレシピ
この映画の残念だったところを一言で言うと上の見出しのとおり。上質な食材(俳優たち)を使って、一流のシェフ(監督)が腕をふるったにもかかわらず、レシピ(脚本)が貧弱すぎた。
ストーリー的にヤマ場である、穀田屋十三郎(阿部サダヲ)と浅野屋甚内(妻夫木聡)が和解するシーンがあるのだが、淡々と喋っている人を順番に写していくだけの工夫のない演出。
また、こういうシーンでは嫌らしくない程度に音楽や効果音を入れるものなのだが、シーンと静まり返ったなかでメリハリのない話が続けられるだけなのは正直苦痛でしかなかった。せっかく役者たちがすごく良い演技をしているのにもったいない。
コメディのはずなのに
上映時間も129分と長めになっており、その長尺に一役買っているのが、やたらと挿し込まれる演者たちの間(ま)なのだが、この間も長すぎてクドい。本当はもっと軽快に展開して、見る者を飽きさせずにしてほしいところでも眠くなってしまった。
製作側はこの映画をコメディとしているが、私が上映時間中にフフッと笑ったのは残念ながら1回だけ。引き合いに出す映画としてはふさわしくないかもしれないが、例えば2014年に妻夫木聡が主演していた「ジャッジ」では、私は少なくとも30回は笑ったし、今でもその笑ったシーンを明瞭に思い出せる。
しかし、この映画はコメディとするにはあまりにも笑わせる力に欠けるし、かといってドラマなのかというと全然ドラマチックな展開ではない。非常にどっち付かずな歴史再現ドキュメンタリー映画として見るしかない。
見どころはやはり役者!
とはいえやはり役者たちの演技だけに注目すれば、これは実に素晴らしい。個人的に注目だったのは妻夫木聡と松田龍平だった。
妻夫木聡は親から大きな使命を引き継いで、家を守りながらそれを成就させなくてはいけない、という難しい役どころだったのだが、彼は一度たりとも歯を見せて笑ったり眉間にシワを寄せて怒った表情を見せたりせずに、その内なる感情を見事に表現しきった。正直、私は妻夫木聡にここまでの演技ができるとは思っていなかったので、彼のことを侮っていたのかもしれない。
もう一人の注目は、これは見た人ほぼ全員がそうだと言いそうだが、財務の役人に扮した松田龍平である。最近の松田龍平はモヒカンになったり、メガネをかけた冴えない人になったりと、いまいちカラーが見えなかったが、今回この映画で当たりを得たりと本人も少しは思っているのではなかろうか。あの冷徹な眼光は彼でないと出すことはできない。とことんまで憎々しい悪役を演じている。
この映画は歴史モノとくくるべき
この映画の救いとなったのは、あくまで実話がベースとなっている点につきる。だから多少脚本が貧弱でも「事実なんだからしゃあない」と許せるし、それを補える役者たちの演技が随所で光っているので、その点を割りきって見ることができる人であれば、劇場に行く価値は大いにあるだろう。
しかし、同じ歴史モノでも例えば「のぼうの城」とかが大好きだった人が、この映画を見たらおそらく30分くらいでまぶたが重くなり始めるだろうと思う。それはひとえに冗長な脚本と、必要以上な間(ま)のせいなのだが、後半に行くにつれそこそこ面白い演技が見れるので、そこはちょっとだけ頑張ってほしい。
繰り返すが129分という長尺にする必要はなかった。要はまじめな映画にしすぎた。編集で監督の欲が出すぎたのかもしれない。その点がクリアされていれば、かなり面白い映画にすることができただけに残念である。
(文・HOW MATCH編集部)