あなたはストックオプションという言葉を聞いたことがありますでしょうか?会社法上では新株予約権と呼ばれているストックオプションは、役員や社員にとってとても魅力のあるインセンティブです。
通常、会社で働いている場合にその会社から貰うことができる報酬は、基本的には給料だけだと思います。しかし、ストックオプションによって、給料以外に大きな利益となる可能性があります。
ストックオプションとは一体何なのでしょうか?具体的に解説します。
【この記事の目次】
ストックオプションって何のこと?
ストックオプションとは、一言でいうと自社株の優待制度です。株は市場で売買されることによって価格が決まり、上がったり下がったりを繰り返しますが、このストックオプションの場合は少し事情が違います。
ストックオプションは、自社の役員や社員に対して、「あらかじめ決められた価格で買ってもいいですよ」という制度で、市場価格よりも優待価格となっている上、事前に決められた期間内であれば、いつ買ってもあらかじめ決められた価格で買うことができるのです。
現在の株価があらかじめ決められた価格より高くなっていれば、買うことによって差益を得ることができます。もしそのあと自社の業績が上がればさらに利益は拡大します。
このように、ストックオプションは給料以外のインセンティブとして役員や社員に与えられている権利なのです。
もう少し具体的に教えて!
では、もう少し具体的にお話しましょう。たとえばストックオプションを採用している会社が「4年以内だったら1,000円で1,000株までならうちの会社の株を買ってもいいよ」という場合はどういうことになるのでしょうか?
もし会社の株価が上がって2,000円になったとします。その時に買えば1株当たり1,000円の利益を得ることができます。つまり1,000株買った場合は合計で100万円の利益を得ることができるのです。
逆に、会社の株価が500円まで下がっていたとします。その場合は1株あたり500円の損失となり、合計で50万円の損失になると思われるかも知れませんが、そうではありません。あくまでも買っても良いという権利ですので買わなくてもいいのです。買わなければ損することはありません。
定められた期間内の株価を見て、得する時だけ買って、損する時は買わなければ良い。それがストックオプションの特徴です。
ストックオプションの起源とは
こんな風にユニークなストックオプションはアメリカで生まれた制度です。元はといいますと、金融商品の付加価値として利用されていましたが、給料をアップしなくても社員に対してインセンティブを期待させ、仕事のモチベーションを高めることができるので、経営が厳しい会社を再生させる際にも活用されました。
アメリカでは1950年の税制改正以降に普及しましたが、日本では1997年まで認められていませんでしたので、実はつい最近までなかった制度なのです。
会社法上の新株予約権のうち、自社の役員や社員に与えられる権利を限定してストックオプションといい、景気対策でストックオプション制度が認められてから日本でも普及し、使いやすいように制度を改善しながら現在に至ります。
税金はどうなるの?
ストックオプションの税金については税制適格かどうかの確認をしっかりしておく必要があります。税制適格っていうのは税金が優遇されるというもののことです。税制適格じゃない場合は随分税金の負担が大きくなってしまう恐れがあるので注意が必要です。
例えば、会社が発行した株が上がっていたので買った時、税制適格の場合は税金がかかりませんが、非税制適格の場合は買った時の株価の差益に対して所得税や住民税がかかり、最大50パーセントの税率となっていまいます。
つまり、まだこの時点では直接現金収入があるわけではないのに、税金だけ毎月支払わなくてはならなくなるのです。
株式を売却した場合には、どちらの場合も譲渡所得として20パーセントの税金がかかりますが、この時は現金収入があるので特に問題はないと思いますが、購入の段階では税金が大きく異なりますので、十分気を付けましょう。
持っている人のメリットとデメリット
ここからはストックオプションのメリットとデメリットを、権利を与えられている役員や社員の立場と、権利を与える側の会社側のそれぞれの立場で紹介します。まず役員や社員にはどんなメリットがあるのでしょうか?
権利を与えられている役員や社員にとっては、自分のお金で価格変動リスクのある一般の株価を買うよりも、利益が出る時だけ買えば良いという自社株は、ノーリスクハイリターンのメリットがあります。
また、会社の業績向上によって株価が上がると、さらなる利益を得ることができますので、仕事に対するモチベーションにつながる上、自分たちの頑張りが直接的に給料以外の利益に反映されるというメリットもあります。
デメリットとしては、自社だけの力ではどうしようもないような業界全体の落ち込みや経済界全体の落ち込みによって、給料だけでなく、給料以外のところでの実害を受ける可能性があるというところです。
会社側のメリットとデメリット
ストックオプションの権利を与える会社側のメリットとしては、現金を支払わずに社員に報酬を期待させ、モチベーションを向上させることができるメリットがあります。
意識改革をしなくても自分たちの頑張りが報酬に直接的に反映されるため、公明正大な報酬制度をアピールすることも可能です。たとえ給料が高くなくても優秀な人材を確保できる可能性もあります。
デメリットは、どれだけ社員が頑張ったとしても、マクロ経済や業界の低迷など、大きな流れが下降線の場合に社員のモチベーションが下がるリスクがあるというところです。
頑張っても成果が出なければ報酬は増えませんので、経済の大きな流れが下がっている時は、ストックオプションの良いところを活かしきれなくなるデメリットもあります。
どんな会社が向いている?
ストックオプションは特にベンチャー企業に向いている制度と言えるでしょう。これから将来の発展を目指すベンチャー企業では、特に立ち上げから間もない間は資金繰りが厳しい場合も多く、業績が安定性していないうちから社員に毎月高い給料を支払う余裕はありません。
社員によっては将来性も分からないのに今の給料も低いとなると、モチベーションの低下にもつながるかも知れません。しかし、将来に期待できる報酬という希望があれば、その働きぶりも前向きなものと成り得ます。
特に小さな会社は個人が全体に及ぼす影響力が大きいので、個人のモチベーションを上げることが重要となります。そのため、小規模ベンチャー企業での導入は特に有効な制度と言えそうです。
メリットとデメリット、両方の意識を
ストックオプションは、定められた期間のうちに定められた価格で自社株を買うことができる優待制度です。給料以外の将来的な報酬を得るものとして、魅力ある制度だと言えます。
しかし、買う場合には税制について知っておかなければ、思わぬ出費となりかねませんので注意が必要です。
また、権利を与えられた役員や社員側にも、権利を与える側の企業側にも、それぞれメリットとデメリットがあることをしっかりと意識しておくべきでしょう。そうすれば、制度のメリットを最大限享受することができるはずですよ。
(文/田中英哉)