水素水。売れているようである。
巷には水素水は体にいいだの、水素水は若返りの効果があるなど、様々なうたい文句と共に、高額なサーバーが取引されている。
しかし、この水素水には科学的にも健康効果はないことは、国立健康・栄養研究所がはっきり認めている。
同研究所の情報センター健康食品情報研究室の声明は以下のとおり。
“俗に、「活性酸素を除去する」「がんを予防する」「ダイエット効果がある」などと言われているが、ヒトでの有効性について信頼できる十分なデータが見当たらない。
現時点における水素水のヒトにおける有効性や安全性の検討は、ほとんどが疾病を有する患者を対象に実施された予備的研究であり、それらの研究結果が市販の多様な水素水の製品を摂取した時の有効性を示す根拠になるとはいえない。”
まあ、こんなものに引っかかる人というのは、日頃から情報リテラシー意識も乏しいんだろうし、ここの読者には1人とていないはずなので、あまり関係ない話かもしれない。
それにしても、水素水のようなわけのわからないビジネスが売れる現在というのは、何ともわけのわからない時代である。
考えてみれば、こういう話はいつかどこかで耳にしたものだ。
そこで今回は、これまで流行した、エセ科学商品の成功モデルを振り返ってみたいと思う。
マイナスイオンビジネス
少し前、マイナスイオンというワードが、あちこちの市場を席巻したことがあった。
マイナスイオンを排出するエアコンだの、マイナスイオンを発生させるドライヤーだの、そういうものがどこそこの家電量販店に陳列された。
マイナスイオンとは、マイナスに帯電した分子だか粒子だか、とにかく当時はもっともらしくこういうアイテムが出回った。
しかし、それらが体にどういう影響をもたらすのか、これが調べても調べても納得のできるアンサーに出会えなかったものだ。
「マイナスイオンが体にいいらしい」というふわっとした大衆心理。これだけがマイナスイオンビジネスを押し上げた形であった。
もっとも、こういう意味不明の理屈で何故か体に良いとされる商品など、景品表示法は許さない。
商品の表示に対して、合理的な根拠が求められるようになると、これまでマイナスイオンを発生するとされる家電を販売していたメーカーは、次々にその効果についての記述を削除した。
さらにはマイナスイオンビジネスで、数億円の儲けを得ていたとされる、マイナスイオン器具メーカーが薬事法違反で行政処分を受け、ブームも沈静化。
今ではマイナスイオンなんて死語となっている。
ゲルマニウムビジネス
ゲルマニウムというワードも、この手の話題には上がりやすいのではないだろうか。
僕は学生時代に陸上をやっていたが、結構少なくない数の選手が、首やら腕に、ゲルマニウムブレスレットなる胡散臭いアイテムを装着していた。
「ゲルマニウムには、32℃以上になると電子を放出するという特徴があり、その電子が生体電流バランスを整えてくれる」と、彼らは僕に熱っぽく説明してくれた。
ではその電子が良くした生体電流バランスが、何をもたらすのかを質問すると、彼らは決まって「足が速くなる」と言ったものだ。
あのとき僕は「ああ、運動ばっかりしてる人間は頭がおかしいのだ」と辟易したものである。
ゲルマニウムビジネスは、こういうふわっとしたことしか考えられない馬鹿を騙しに騙した疑似科学ビジネスだ。
科学者の公式な見解はいくつも出ているが、いずれもゲルマニウムの健康効果を否定するものばかり。
そもそもただの金属であって、こんなものを身につけていても、何がどう変わるというものでもないので、当たり前の話である。
正直、ゲルマニウムの見えない効果を信じている人っていうのは、パソコンやスマホから毒電波が出ているとか何とか言って、電車の中でわめいている危ないおばさんみたいなもの。
全く科学的にありえない話を、少ない情報だけで判断して、プラシーボ効果で「やっぱ効くわ~」とか言っている、おめでたい人々なのである。
極めつけは、美顔キープのためのゲルマニウムローラーの登場。
通販で登場した瞬間、その日のうちに数百万円の売上に繋がったという。
顔をコロコロしているだけで、肌がキレイになるローラーという謳い文句。これにゲルマニウムの疑似科学をこじつけていれば、消費者はコロッと騙されると思ったのだろうが、果たしてその目論見は的中したのである。
正確な売上を把握するのは困難…闇深きトンデモビジネス
マイナスイオンビジネスにしても、ゲルマニウムビジネスにしても、いったいこのブームでどの程度の経済効果が生じたのか。
それを推し量るのはなかなか困難だ。
企業によってはまともな製品と混同して売上に計上しているし、発表されている収益を見ても、判断がつかない。
こういう場合は、素直にメーカーの発表している「売上第1位!」というワードを参考にしてみることにしよう。
ぶっちゃけこういうインチキアイテムは売れるので、1つ数万円もするものがアホみたいに人気商品になっている。
この売上と、メーカーの商品全体の比率を考えると、やはりブームの真っ只中にあっては、かなりの儲けには繋がっていたであろうことが推測できる。
さらには、2000年代に入り、科学的な根拠がない商品は景品表示法の改正によって、そのことを公にしなければならなくなった際に問題となったいくつかのメーカーの商品がある。
こういった、いわゆる「嘘がばれちゃった」際の行政処分。最初の項目でも触れた部分であるが、この処分内容を見ると、おおよその売れ行きには想像がいく。
本来、誰の心にも引っかからないような商品が、疑似科学という胡散臭い情報を付与されるだけでバンバン売れる。
こういう状況は、本当にヤバい。
(文/松本ミゾレ)