自分へのごほうびとして、家族への奉仕として、独身なら彼女や友達と楽しい時間を過ごすために旅行に出かける。普段仕事に追われ、疲れた心と体をリフレッシュするのには旅行が一番だ、そう考えるかもしれない。
【この記事の目次】
1回の海外旅行費の相場は月収の4分の3
JTBが2003年に「12月23日から1月3日の間に一泊以上の旅行に出かける人」を対象に実施した調査によると、平均支出の割合は次のようになった。
- 国内旅行平均費用 32,000円
- 海外旅行平均費用 217,000円
30代前半の男性の平均月収は35万円、そこから税金などの諸経費を引くと約28万5千円ほど。つまり、海外旅行に限っていえば、月収の4分の3ほどを数日間の旅行で使い切ることになる。
はたして、旅行にそれだけの価値があるのだろうか?
旅行に行く理由トップは「恒例だから」
夏休み、冬休み、ゴールデンウィークなど会社や学校の長期の休暇と重なる時期には旅費が通常の2倍、3倍になることも珍しくはない。
そんな時期にわざわざ出かける理由は何なのだろうか。同調査によると以下のような結果となった。
- 1位 毎年恒例なので
- 2位 実家で過ごすため
- 3位 家族や友人と過ごす
- 4位 リゾート・温泉などでゆっくり過ごす
- 5位 この時期しか一緒に旅行できない
- 6位 正月情緒を味わう
- 7位 おいしいものを食べる
- 8位 自然や風景を楽しむ
- 9位 この時期しか長期の旅行ができない
- 10位 家にいてもつまらない
1位と2位の理由、これは私の住むイギリスにおいてはクリスマスがあてはまる。イギリスをはじめ、欧米諸国ではクリスマスは家族で過ごすものと決まっている。
ただ、一口に「家族で」と言っても家族形態も住む土地も異なるため、さまざまな問題が起きる。
私の友人夫婦などは(イギリスの地名ではわかりにくいので日本の県にたとえると次のようになる)本人たちは東京に住んでいるが、青森に住む夫の両親と大阪に住む妻の両親がどちらも「初孫ができた今年のクリスマスは一緒に過ごしたい」と言ってゆずらない。
そこで彼らは、24日に青森へ出かけ1泊、クリスマスの本番である25日の半分を過ごしたあと大阪へ向かい、残りのクリスマスと26日を過ごして帰宅。のんびりできないことで双方に気をつかう上に赤ちゃんを抱えての移動は想像以上に大変で最悪なクリスマスだったらしい。
楽しむための手段は必ずしも旅行ではない
毎年恒例で、毎年皆が楽しめるなら問題はないが、そうでなければ時間とお金を費やしてまで続ける必要があるのか。
3位、7位、8位、10位を見てみると、わざわざ旅行に出かけなくても工夫次第で充実した時間は過ごせるように思う。最も旅行代の高い時期に最も人の多い場所へ出かけ、何をするにも待たされてうんざりするよりも、もっと別な休暇の過ごし方があるのではないか。
ひとりで、または友人と出かけるならスーパー銭湯に行ってリラックスしたあと、カラオケで歌いまくってストレスを発散させたり、ドラッグストアで安く仕入れたお酒で家飲みというのもいいかもしれない。
妻や子供がいれば、子供優先になるのは仕方ない。だが、大人でも興味がもてる上に安上がり、もしくはタダという嬉しいイベントがある。
それが工場見学だ。私もロッテ、コカ・コーラ、グリコの工場見学に参加したことがあるが、興味深い体験ができたうえにお土産までもらった。そのほか雪印牧場に代表される大型自然公園もお勧めだ。数100円の入場料で丸1日楽しめる。
金額と満足度は必ずしも比例しない。大切なのは何をするか、そしてそれを誰とするか、なのである。
旅費に10万円かけても人生観なんて変わらない
「インドに行ったら人生観が変わる」――私のまわりの何人かの人がこう言ってました。確かにインドの人口は日本の10倍ですし、物価も比較的安く、タクシーや電車などの交通費にいたっては日本の10分の1くらいです。
その反面、日本の常識がまったく通用しないところもあります。約束した時間は守りませんし、列にも並びません。警察もまったく機能していないという噂もあるほどです。
そんな世界屈指の無法地帯と言っても過言ではないインド。そのインドに実際に旅行したという、私のかつての仕事仲間だったYさん(37歳)という人がいます。私は彼に、改めてインドに行ってみてどうだったか、行く前と行ったあとで何が変わったのか、聞いてみました。
きっかけはただの憧れから
――インドに行ったのはいつ頃?
Yさん 今から7年前くらいだったかな。会社の夏休みを利用して5日くらい行ってきた。
――1人で?
Yさん そう。やっぱりインドに行くなら1人でしょ!
――まわったのはどこら辺を?
Yさん 旅行会社のパックツアーで申し込んだから、デリーを中心とした都市だね。あとはタージ・マハルとかガンジス河とかお決まりのコースだよ。費用は10万円くらいだったよ。
――どうしてインドに行きたかったの?
Yさん ああいう国をバックパック背負って1人で歩くのって憧れるじゃない?そういうノリで行きたかったから。テレビで見るあの光景を、実際にこの目で見てみたかったってのが行く前の一番の理由かもしれない。
空港に着いた瞬間に衝撃
――行ってみて何に一番驚いた?
Yさん 全部(笑)!もうね、五感で感じるものすべてが日本とまるっきり違うんだよ。目に入るものの色合いとか、においとか、気候とか。アナザーワールドに来てしまったなと思った。
行く前からインドは色々とすごい国だっていうことは知識としてはあるつもりだったんだけどね。
まず空港に着いて外に出ようとすると外に人だかりがあるわけ。日本の空港でもあるじゃん?ホテルの人が「○○様」って書かれたプレートをもって立っているやつ。
――うん。
Yさん そんな感じで別にプレートをもっているわけじゃないんだけど、とにかく大勢の人がものすごい大歓迎ムードで旅行客を待ち構えているわけ。
彼らは別にホテルの人とかガイドとかじゃないんだよ?で、なんだろうあの人たちと思って近づいてみたら、全員がなんと物乞いだった。
――本当に!?
Yさん そう。空港に到着したのは現地時間の結構な夜中だったにもかかわらずだよ?彼らにとっては旅行客はお金にしか見えないのかもしれないね。
慣れた旅行者はそのなかの誰かと交渉して宿を手配してもらったりするんだって。本当に、自然と宿が決まるらしいよ(笑)。
外でカメラを取り出せない
――強力だな~、その話。で、君自身は無事に宿に着いたの?
Yさん もちろん!そりゃ日本で手配した旅行会社だからね。無事に着けないと困る。
――翌日から観光したんだよね?
Yさん そう。まず日本からもってきたお金の一部をルピーに両替したんだけどしわくちゃの札束がどっさりもどってきてびっくりした。バスとかは日本円で10円くらいで乗れてすごく安いんだけど外食はそれほどでもなかったかな。
タージ・マハルとかの寺院は写真や映像で見たとおりの世界だったけど、驚いたのは街でのこと。写真を撮ろうとカメラを構えた瞬間、周りに子供の人だかりが一瞬でできた(笑)。
――また物乞いだったの?
Yさん 物乞いもあると思うけど、彼らは単にカメラに対する好奇心があったんだろうね。日本人なら誰しももっているようなカメラも、彼らのどの家にもないような世界だから。カメラを出しただけで子供たちが寄ってくるなんて日本じゃ絶対にありえない光景だよ。
それにお店で飲み物を頼んでもコップに入れるんじゃなくてビニール袋入った状態でくるんだよ?それにストローをブスっと刺して飲むわけ(笑)。
ガンジス河では火葬が日常的に行われている
――ガンジス河はどうだった?
Yさん 沐浴ももちろんやったよ。経験として「俺、ガンジス河で沐浴したんだぜ」って言いたかったし。
で、河原のそこかしこで煙が立ってるのね。あまりにひっきりなしに煙が立ってるからなんだろうと思って見てみたら火葬だったという(笑)。
――マジで!!??
Yさん マジだよ。もうずっと昔からこの国ではこのようにしてきたのだから、それが当たり前なんだろうけど、まるで日本で焚き火をしているかのように、火葬している光景には言葉を失ったよ。
それにもうすぐ死をむかえるだろう老人が河のほとりに座ってじっと死を待っていたりするんだよ。だから河には死体が当たり前のように流れていたりするんだって。衛生状況は最悪だよね。
海外は行ってみて知ることが山のようにある
――確かに貴重な体験をしたね。
Yさん あの体験が10万円で買えたのなら自分にとっては貴重な経験だった。本やテレビで見るものとはまったく違ったからね。
とにかく、自分はそういう世界を「知らなかった」ということがわかったのが最大の収穫だった。海外なんて、行ってみてはじめてわかることが山のようにある。
――さっきも言ってたけど五感で感じるすべてが違うよね。
Yさん そう。もう五感で感じるすべてが違うんだ。こればっかりは行ってみないと絶対に分からない感覚。今もこうして話していると当時の思い出がよみがえって自分が日本にいるのを忘れそうなくらい。
――で、日本に帰ってきてから人生観とか変わった?
Yさん 何も(笑)!
自分も行くまでは、「これで人生が開眼しちゃうかも」とか淡い期待を抱いていたんだけど、日本に帰ってきてしばらく生活していたらあっという間に元通りの日常に戻っちゃったよ。
人生観なんて旅行しただけでそんな簡単に変わるわけないんだって。インドっていう国は確かに色んな面で衝撃的だったけれども、それらはただ自分の経験として刻まれただけだからね。
――じゃあまた行ってみたい?
今もう一度行けっていわれたらどうするかな~。あのときだからこそ楽しめたってのはあるかもしれない。だからできるだけ年齢の若いうちに行っておいたほうがいいかもしれない。
そのときに味わった経験は何年たってもどこかで自分の弱さを強くしてくれるかもしれない。「インドでは今日もあれだけの人たちが必死に生きているのに」って考えると、日常の大変なことなんて、なんとラクなことかと思えることもあるよ。
(文/森野万弥 インタビュー・文/HOW MATCH編集部)