ちょっとだけ古い話をしたい。今から13年前。当時19歳ぐらいだった僕は、とにかくお金がなかった。まあ、今も決して裕福でもないんだけど、まあ~悲惨なほどにお金に縁がない生活を送っていた。実家住まいで、自分の部屋にエアコンもなかった。
いざ1人暮らし!そのとき紹介された奇妙な物件
九州育ちだったので、夏場に空調がないというのは、かなり苦しい。そこで1人暮らしを思いついた。若いだけあって行動力は今の35億倍ぐらいあった。早速色々と物件を探して回ったところ、結構お得な部屋や借家だらけだと気付かされた。
築年数は30年ぐらい行ってるけど、住むには十分な家も少なくない。どれにしようか迷っていると、ある不動産家が面白い物件を紹介してきた。
ものすごくざっくり書くと、物件を決めあぐねている筆者に対して、「こういうのあるよ」と敷金礼金一切不要、共益費すらいらないという夢の3LDKがあると教えてくれたのだ。しかも最初の1ヶ月は家賃までいらないという。それだけではない。
「1ヶ月住んでもらえれば、200,000円あげるよ」とまで言われたのだ。
その部屋は幽霊物件!だけど住めば都…
……ピーンと来た。
ははあ、これは相当厄介な部屋だなぁと。ビンゴであった。
この不動産屋も、ほとほと持て余していた物件。それがこの3LDKなのである。数年前に病死した借主が出てしまい、以降何度入居者が入っても、すぐに「幽霊が~!」と叫んで出て行ってしまうというのだ。
でも、何故1ヶ月住めばお金がもらえるのだろうか。そもそもこういった曰く付き物件、業界では心理的瑕疵物件と呼ばれている。
立地も間取りも良いのに、相場よりも安い部屋は全国にちらほらあるが、そういった部屋の説明をよく読むと、しれっと「心理的瑕疵物件のため」なんて書かれている。
要はこういった部屋は、過去に嫌な事件や事故の舞台になっていますよ、だとか、幽霊が出ますよ、なんてことを意味するのだ。
ただ、こういった曰くの説明義務は、一反誰かが入居して、問題が起きなかった場合は告知しないという不動産屋も多いようだ。
心理的瑕疵物件は、1ヶ月程度でも誰かが入居すれば、以降は入居希望者への説明義務はなくなるとする解釈もあるという。そのため、規定の期間、問題のある物件に住むことでお金を得る仕事というのもあるのだというんだから、世間は広い。
無事報酬ゲット&即退去でエアコンもゲット!
筆者の場合、即決でその3LDKに引っ越してしまった。果たして入居当日から、金縛り連発、異音聞こえまくり、老婆が壁の中から出てきまくりなどの異常現象が発生したが、全ては気のせいと思ってやり過ごした。
大体幽霊なんているわけがないのだ。
だけどちょっと怖い気持ちもあったので、家が神社という同級生の父親にお願いして、御祓いをしてもらった。この気休め程度の処置が、えらく効果覿面だった。
以降は一切おかしな現象は起きなくなり、無事に1ヵ月後には200,000円ももらえた。ただ、翌月以降の家賃が、当時の僕ではどうにも出来ないほど高かったので、すぐに退去した。
もらったお金でエアコンを買い、僕は再び実家に戻ることにしたのである。
(文/松本ミゾレ)