「弁護士をしている」と聞けば「じゃあ結構いい給料をもらっているんだろうな……」と思うもの。弁護士に限らず、取得難易度の高い資格は高年収を連想させます。
しかし一方で、「弁護士でも稼げないこともある」という話も耳にします。弁護士の年収は二極化しているのだとか。
ここでは、弁護士の平均年収や年収格差、今後の見込みなどについて検討していきたいと思います。
弁護士の平均年収は1,094万円
さまざまな職業の平均年収がまとめられているサイト「年収ラボ」を使って弁護士の平均年収を調査してみます。平成27年の弁護士の平均年収は1,094万円だったそうです。
さすが弁護士。平均年収ですら1,000万円を上回っていますね。
筆者は最近、「弁護士だからといって高所得とは限らない」、という話を聞いたばかりだったので、もしかすると弁護士でも平均年収は1,000万円を下回っているかも……、と心のどこかで予想していました。でも、やはり弁護士の平均年収は高いんですね。
平均年収1,094円の内訳はこうです。平均月収82万円。時給に換算すると約4,600円。ボーナスは108万円。資格別の年収ランキングでは、弁護士は医師に次いで2位の高さとなっています。
時給に換算すると4,600円、ということですが、ふと、筆者が学生のころ、ファーストフード店でアルバイトしていた時代を思い出しました。確か時給950円だったと思います。それと比較するのもおかしな話ですが、時給4.8倍の差に改めて驚きます。やはり資格の力はスゴイですね。
弁護士についてのデータを見ていくと、総労働時間という欄があって「177時間/月」となっています。週末の土日休むとして計算すると、1日11時間の労働時間になります。
年収は高いですが、仕事している時間も長いんですね。残業が多いということでしょうか。
仕事内容ももちろん濃いもの。複雑な書類作りも自分でしなければなりません。そういうことを考えると、弁護士の給料は高いですが、決して楽をして稼いでいるのではないのだということが分かります。
弁護士の年収格差
データを調べていくと、どうやら男性弁護士と女性弁護士とで平均年収に差があるようだということが分かりました。
- 男性弁護士の平均年収は1,159万円
- 女性弁護士の平均年収は766万円
同じように勉強して同じ難関を突破して得た資格なのに、男性と女性とで年収に400万円近くも差があるなんて驚きました。
女性はどうしても子育てや家事をこなしながら仕事をすることが多いので、就業時間自体が少ないためにそうなるのかな、と筆者なりに予測しています。
それは理解できることとして、もっと深刻な問題が発生しているようです。それは弁護士の年収の二極化。顧客集めが上手にできている弁護士はどんどん仕事が発生して儲かっている一方で、待てども暮らせども仕事が来ずに年収100万円程度で終わってしまう弁護士もいるのだとか。
さらに、儲かっている弁護士の場合、年収は5,000万や1億にも達することもあるのだそうです。
過払い金バブルとは?
弁護士の年収格差についてですが、この現象は2007年以降にまきおこった、弁護士の間で俗に言われる「過払い金バブル」と関連して顕著になりました。
「過払い金バブル」とは、当然と思って支払っていた利息が実は法外の金額だったために訴訟を起こす人が増えた時代。この訴訟において敗訴することはほとんどないため、弁護士にとってはお金を儲ける絶好のチャンスだったのです。
さらに、取り戻したお金の20~30%を「報酬金」として得ることができました。それで時には「報酬金」だけで100万円にもなることもあったようです。これはおいしい話ですよね。
おまけに、過払い金に関する案件の処理はそんなに複雑ではないようです(ただし、ヤミ金企業と揉めるとやっかいになることもあったようですが……)。
特にこのころ、年収が1億や2億に達する弁護士が続出したようです。弁護士は儲かる、というイメージが今までになく濃くなったのはこの影響かもしれませんね。
その後、利息制限法が制定されたため過払い金が発生しなくなり、「過払い金バブル」は徐々に過ぎ去っていきました。
近年ではそこまでいい仕事を見つけるのは難しくなっています。それで、弁護士の資格を持っていても年収100万、200万、というケースが発生しているのです。
新人弁護士の年収は減少傾向に
日本経済新聞によれば、全体的に弁護士の年収は年々下がっているようです。それと同時に、新人弁護士の年収も下がっているようです。
法務省の調査によると2015年の新人弁護士の平均年収は568万円。新人ならこの金額でも上等なのでは?と筆者は思ってしまいましたが、新聞によれば5年前に比べて210万円も下がったのだそう。これは大きな差ですね。
というか、5年前の新人弁護士は走り出しから年収778万円も稼いでいたということになりますね。やはり弁護士は儲かる!というイメージが筆者の中で再び戻りつつあります。
弁護士って儲からない?
それでも、やはり仕事がなくて困っている弁護士もいるようです。どうしてなのか、その理由を探ってみました。そして分かったのは、2007年以降の就職難が大きな要素になっていること。
それ以前は、司法研修所を終了したらそのまま法律事務所に雇われ、仕事を始めることができていました。ところが、2007年の新司法試験制度を機に、これまで年間300人台だった合格者が1,700人に増え、大勢があぶれる結果になってしまったのです。
そのため、弁護士の資格を持ってはいても年収の低いケースが発生しやすくなってしまったのです。司法試験に合格しやすくなるのはうれしいことですが、その後仕事が見つからないのは困りますよね。
それに追い打ちをかけるように存在している問題がまだあります。それは弁護士の登録にかかる金額がけっこう高いこと。特に、走り出しの新人弁護士にとってはネックになっています。
地域によって多少差があるものの、相場は年間60万円ほど。さらに、人によっては奨学金の貸与を受けている場合もあり、その平均は約350万円。そのほかに、司法修習生には月額23万円、合計300万円ていどの貸与を受けていることがほとんどで、合計650万円のお金を少しずつ返していかなければなりません。
一般的には、司法試験に受かってから5年以降、10年間かけて返していくそうです。
つまり、弁護士になりたての段階では経済的に負債を抱えているということです。この状態で就職難ともなれば、精神的ストレスは大きいことが予測できます。
弁護士の今後の見込みは?
先ほど「過払い金バブル」について少し触れましたが、今後の見通しとして「未払い残業代バブル」が巻き起こるのでは、と話題になっています。
これまでも残業代の未払いという問題は発生していましたが、労働基準監督署に相談して解決を図ることが多く、弁護士を雇うことはあまりありませんでした。ところが最近では、そういう問題は弁護士を頼んで労働審判や訴訟にまで発展するケースが増えているのです。
また、訴訟までは起こさなくても、現役の従業員が職場の上司あてにある日突然内容証明郵便を送りつけ、宣戦布告するケースも増えています。
一昔前は請求をするのはすでに退職した元社員であることが多く、現役の社員が請求するということはほとんどありませんでした。人間関係がドライになっている昨今では、もらうものはもらう、と割り切ってさっさと問題を解決しようとするケースが増加しているのです。
それで、多くの弁護士の間で、次は「未払い残業代バブル」では?という話がでているのです。
ここまでで弁護士の年収事情について考えましたが、筆者の感想としては、うまくいけば弁護士はやはり儲かる、といえそうです。ただし、うまくいくかどうかの保証はない、ということも分かりました。
(文/河原まり)