いきなりだけど、僕はラップ好きだ。
高校時代にはアルバイトをしてCDを買い漁っていた。
しかし、見た目はその辺の田舎の学生だったし、どちらかと言えばオタクだったので、普段はラップを聴いていることを隠していた。
部屋には普通にCDもポスターもあるので、家に入ったことのある友達だけが、その事実を知っていた。
僕が青春時代を過ごしていた2000年代の初頭は、まだ日本のラップシーンは草創期。
有名なラッパーもインディーズで活動していることが多かったし、一般にもウケのいい有名どころは、大体コアなファンからdisられていた。
ある種、閉鎖的な世界だったと言えるだろう。
ラップがここまで浸透した功労者、フリースタイルダンジョン
ひるがえって現在では、割と若者の間でもラップが親しまれるようになった。
そんな状況を作った立役者の一つに数えてもいいのが、テレビ朝日系の人気番組「フリースタイルダンジョン」だ。
同番組は、毎回一般のラッパーを何人も集めて、企画側が用意している「モンスター」ことプロのラッパーとガチのフリースタイルラップ対決を行うという趣旨のものである。
勝負は8小節2ターンをそれぞれが先攻・後攻に分かれて行う。
性質上お互いにdisりあうことになるんだけど、これが結構盛り上がるのだ。
毎度登場する挑戦者が、モンスターに打ち勝って勝ち抜くか。それともモンスターの圧倒的な実力の前に倒れるのか。
どっちに転んでも盛り上がる構成になっている。
放送開始よりじわじわと人気が高まり、初期には無料ネット配信も行われていたため、認知度は今や押しも押されないものとなっている。
賞金は100万円。ずばり難易度の割に安いのがネック
挑戦者の勝ち抜き戦方式ということで、この番組、全モンスターを倒し、ラスボスとして用意されている本格派ラッパーの般若を倒すことができれば、賞金1,000,000円が授与される。
モンスターは4人、そして最後に般若。
5人を倒せば1,000,000円ということになるんだけど、化け物のように語彙も豊富で、頭の回転も早いプロを全員片づけて、ようやく100万円というのは何とも難しい道のりだ。
一応勝ち抜くごとに賞金は徐々に増えていくミリオネア方式なんだけど、番組の性質上、ドロップアウトは大いに批判される対象となる。
ラッパーに敵前逃亡はないのだ。
そういう雰囲気の中で挑むモンスターのプレッシャーは半端ではない。
賞金5,000,000円でもいいように思えるが、そこらへんは予算の関係もあって難しいだろう。
ただし、番組の初期は賞金500,000円だったので、一応番組の人気に伴って賞金は倍増しているということになる。
このままいけば、もうすぐ賞金もまた倍増するのかもしれない。
視聴者としては、より高い賞金をかけたバトルの方が観ていてワクワクするので、ここは期待したいところだ。
日本のラップシーンを変革した稀有なフォーマットにリスペクト
長らく日本のラップって、人気は根強いものがあったんだけど、一般にはそこまで注目されることはなかった。
ところがこの「フリースタイルダンジョン」の放送開始以来、驚くほど市井にラップバトルは浸透していった。
これはもう、長年資本主義丸出しレーベルの、魂も何もこもっていない日本のなんちゃってラップアーティストばかりが話題になっていた状況に苦々しさを感じていた僕としては、本当に嬉しい。
やっと本来のラップが受け入れられるようになったものだと、今は幸せいっぱいだ。
状況を変革させたパイオニア、「フリースタイルダンジョン」に感謝すると共に、後追いのヤバい番組が放送されてほしいという思いである。
(文/松本ミゾレ)