少子高齢化が加速する昨今、出生児より死亡者の数が上回る「自然減」が国内の大きな問題になっている。
総務省が昨年度に発表した、2014年10月1日時点での人口推計では過去最大の減少値を記録。国はもちろん、各自治体はその対策に追われている。
そんななかで、自然減を食い止めてプラスへと転換した、「平均所得240万円前後の村」があることをご存じだろうか。
人口減少を止めたのは「島根県邑南町」
人口が減るのは当たり前の時代に、それをプラスへと転換したのは「島根県邑南町(おおなんちょう)」。
島根県の中部、広島県との県境に位置する自治体で、県内でもっとも広い面積を有する町であるが、人口は約11,000人と決して多くはない(2015年12月時点)。
しかも全体の平均年収は240万円前後と、日本全国の平均年収である400万円~500万円に比べるとたった半分程度。
ただ中国山地に接する自然豊かな地域として知られており、四季折々に移り変わる景色は壮観。島根県の伝統文化である「石見神楽」や自然を活かしたレジャースポット「瑞穂ハイランド」など、小さな自治体ながら見どころは多い。
そして注目すべきは、同町が2011年度から打ち出している「日本一の子育て村構想」。積極的な子育て支援により、子育て世代に興味を持ってもらい、自然減を食い止めようという趣旨でスタートした施策だ。
「日本一の子育て村構想」とは
「日本一の子育て村構想」がスタートしてから2年後の2013年、年々加速していた邑南町の人口減少はストップしてプラスに転じた。たった2年でなにが変わったのか、いくつかの施策をピックアップしてみよう。
子供(0歳~中学生)医療費の無料化
0歳から中学校卒業までを対象に、医療機関の医療費自己負担金(保険適用分)がすべて無料。
島根県も乳幼児などを対象にした助成金制度を施行しているが、こちらは邑南町単独の上乗せ助成により実施されている。
保育料負担軽減(第2子以降全額無料)
2人目の子供以降にかかる保育料が全額免除される。3人目以降などを対象に実施している自治体は見かけるところ、2人目以降での免除は珍しい。
充実した医療体制の提供
村の医療を担う公立邑智病院には、産婦人科医や小児科が常勤している上、内科をはじめとした合計9科を揃えている。
また24時間365日での救急受付から、ドクターヘリによる緊急輸送なども行っており、地域の医療体制は万全だ。
就労定住支援
定住支援コーディネーターを町の専従職員として採用し、就職先・学校・住居の紹介を町役場で実施する体制を整えている。
具体的には、新規就農支援や無料職業紹介などを村全体で後押ししているのだ。ほかにも町内に誘致した企業との見学だったり、結婚支援として出会いの場を提供していたりと、サポート環境はかなり手厚い。
これ以外にも、「ワクチン予防接種費用の全額助成」や「小中学生の通学バスの利用無料」など、じつに多岐にわたる子育て支援を実施している。
これだけのサポートがあれば、子育て世代は快適に安心して暮らすことができるはず。人口減少がストップしてプラスに転じたのも納得の内容である。
生活の質は年収と比例するものではない
子育てをしやすい環境にある邑南町に対し、それを魅力に感じて移住してきた人々は「落ち着いて暮らせている」「心の余裕が戻って救われた」などの声を寄せているようだ。
さらに「年収は100万円ほどダウンしたが家賃は安く、近所から野菜や米をいただけることもある。だから家計が苦しいと感じたことはない」といった声もあるという。
平均所得240万円前後の村と聞けば、どこか寂れたようなイメージを抱くかもしれない。
しかし自治体の後押しもあって、邑南町の人々は間違いなく豊かな暮らしをしている。やはりお金持ちと幸せは結びつくものではなさそうだ。
(文/吉松京介・エストリンクス)