LGBTという言葉を最近よく目にするようになりました。
特に、それがいわゆる人権問題ではなく、特に2000年以降、経済面でLGBT市場、LGBTマーケティングという言い方で見るようになって来たのが特徴です。
ここではそのLGBT市場とはいったいどういうものなのか、そしてなぜ今注目されているのかといったことについて解説していきます。
LGBTとは何か?現在の状況は?
LGBTとは「性的少数者」のこと
LGBTとは同性愛者の
- レズビアン(L)
- ゲイ(G)
- 両性愛者であるバイセクシュアル(B)
- 心と体の性が一致しないトランスジェンダー(T)
という、性的少数者を限定的に指す言葉の頭文字をとった言葉です。
その歴史的な経緯は、まず1970年代にゲイが法的に平等に扱われる権利を主張し、差別の撤廃などを目指して活動を始めてから、次第にLGBTの4カテゴリーの人たちが合流して活動するようになり、全世界広まっていきました。
その結果、アメリカでは同性愛者同士が性行為をすると刑事罰で逮捕されるなどの差別があったものが、2003年にマサチューセッツ州で同性婚の権利が裁判所によって認められ、2015年にはアメリカ全土での同性婚の権利が最高裁によって確認されました。
この動きはアメリカから始まって世界各国に広がり、現在、同性婚が求められている国は約20カ国にのぼっています。
日本では7.6%がLGBT
人口割合で言うと、LGBT人口はアメリカでは3.6%、日本ではそれ以上の7.6%になると言われています。
日本でも東京都渋谷区と世田谷区が同性同士のカップルを公的なパートナーとして容認し、企業でも同性パートナーが慶弔休暇や介護制度の対象になるという制度を導入するところが増えてきています。
LGBTをビジネスチャンスとしてとらえる企業
それだけの人口割合があれば、政治的に発言権が高まるのは当然ですが、しかし経済面でも注目されている理由はなぜでしょうか。
人種、あるいは人口カテゴリーで言えば、日本では被差別部落やあるいは在日韓国人の人たちがいますが、その人たちをマーケティング的なカテゴリーでとらえることはありません。なぜLGBTだけそのようになるのでしょうか。
LGBTがビジネスに与える影響とは
まずLGBTに対して先進的な取り組みをしている企業や経営者は、以下のように考えています。
「多様性」という意味のダイバーシティという言葉がありますが、企業として価値観や人種の違う多様な人材を確保し、互いの能力の発揮を促すことは生産性を上げるということと、「新しい市場にリーチする」ということへの解決策の1つです。
その点で企業がLGBTたちが働きやすい職場を作ればLGBTだけではなく、優秀な人間が集まり、それぞれが忠誠心を持ってくれ、そしてその結果組織としての人材の層の厚さが生まれて、企業の生産性が上がる、ということが言えるのです、
また特にLGBTに関して言えば、企業がほかも含めたマイノリティ・グループと「関係性」を構築し育んでいく上でLGBTは重要な概念であり、同時にグローバル展開を目指すうえで必須だと考えられています。
LGBT市場とはどういうものなのか?その規模は?
そのように、企業運営にとってLGBTフレンドリーな組織風土や制度を構築していくことは非常に重要ですが、同時にLGBTたちを対象にしたLGBT市場というものも無視できなくなってきています。
LGBTたちだけを対象にマーケティング的なカテゴリーが存在するということへの不思議さに触れましたが、アメリカではすでにナイトクラブやショップ、レストラン、タクシーなどで、LGBT顧客に特化したビジネスが展開しています。
それはLGBTはLGBTたちだけが集まって飲食することに安心感を持ち、また同時にたとえば意識としては女性、肉体的には男性のLGBTの場合、意識に合った服装をしたくても一般の洋服店には合うサイズのものがない、ということもあって、このようなビジネスが成立しているわけです。
このLGBT市場での購買力を特にピンク・マネーと呼び、現在アメリカ合衆国やイギリスなどの欧米諸国では、発展マーケットと言われています。その市場規模はエンターテイメントや消費財などのさまざまな分野を合わせると、総額で3500億ドルと推計されています。
日本においては電通ダイバーシティ・ラボが実施した電通LGBT調査によれば、LGBT市場は5.94兆円の消費総額だということですので、これは今まで手つかずだったとすれば、企業にとっては注目すべきカテゴリーだと言えるわけです。
なぜLGBT市場は注目されているのか
以上のようにLGBT市場は今までカテゴライズされてこなかった「手つかずの」市場であるということから注目されていますが、それ以上に、LGBTの人たちの購買力、消費力が一般の人たちと比較して非常に強い、ということも企業が着目する要因になっています。
LGBTの人たちは新商品や新サービスに対する感度が高く、高額でも自分に合っていればすぐに購入する傾向があります。さらにLGBT向けの広告にも敏感に反応し、その掲載企業やブランドに好意を持ち、さらに購入意欲が高まります。
つまり、LGBTはマーケティング的に市場を牽引するいわゆる「イノベータ層」だといえるわけです。
そのデータ的な根拠としては、LGBT向け商品を投入しているバナナ・リパブリックやニーマン・マーカスでは、LGBTの購入頻度は一般人のの3〜4倍だと推計されており、ほかにもネット通販では2倍以上の購入率、高級車の購入比率も2倍以上あるということですから、さらに注目度はアップするということです。
またLGBT当事者の消費だけでなく、それ以外の一般層の人たちも、企業がLGBTを支援するとその企業への好感度や選好度が高まり、購入が増えるという傾向もあります。これを「レインボー消費」と言います。
これを受けて多くの企業が、LGBT支援を表明し、LGBTを対象にした商品、ブランド、店、サービスの展開を実行したり、検討したりしています。
一方で偏見や過熱ビジネス化への違和感も
しかし一方でこのLGBT市場をターゲットにしたマーケティング活動、マーケティング戦略に対する批判もあります。
LGBT市場のちぐはぐさに対する批判
1つはそのようにLGBT向けの商品、サービスを出すこと自体が、LGBTのコミュニティを隔離するものであり、返って差別を助長する、ということです。むしろ求められているのはLGBT向けのサービス、商品ではなく、異性愛の人たちと同じように扱われる制度や一般人の態度なのだという理由です。
もう1つは「ピンクウォッシュ」という批判です。これは元々、イスラエル政府がパレスチナ人への人権侵害を行っている事実をゲイフレンドリーを積極的に打ち出すことで、イスラエルが「人権先進国」であるかのように見せるイメージ戦略を批判して言われ始めたものです。
政治的あるいは行政的には、ほかにもイラク侵攻で多くの市民を殺したアメリカ政府が「中東でのLGBTへの人権侵害」をことさら非難する姿勢を見せたことや、日本でも公園からのホームレスの排除を推進する渋谷区が一方では「同性パートナーシップ証明」を打ち出したことなどが、ピンクウォッシュに当たるでしょう。
3つめは、企業のLGBTフレンドリーな態度はあくまで「商売で利益を上げるため」の方便であり、企業の経営方針としてLGBTの権利を保護したり、その人たちの活躍の場を与えようとしているわけではない、という批判です。
その証左としては、東洋経済新報社の「CSR企業総覧2014年版」によると、LGBTの人権を尊重し差別禁止の基本方針がある企業は607社中114社、LGBTについて制度整備をするなどの取り組みをしている企業は604社中80社しかない、ということが挙げられます。
つまり、LGBT市場には参入しようとしていても、LGBTを本当に支援しようとしているわけではない企業が多い、ということです。
根強い偏見もまだ残る現実
このようなことの背景には、まだ日常生活の中で根強く残る差別意識や、差別行為の存在があります。
ある調査では、LGBTのうち7割が学校でいじめにあい、3割は自殺を考えたことがあるという結果が出ています。特にいじめの内容としては、
- 言葉の暴力が53%
- 無視や仲間はずれが49%
- 身体的暴力が20%
- 服を無理やり脱がされるような性的暴力が11%
となっており、そのうち72%が1年以上継続して差別行為が行われていました。それを行ったの大半は同性の同級生でしたが、12%は「担任教師」だったという信じられない事実が判明しています。
つまりビジネス上、消費生活上はLGBTを尊重しようという風潮は高まっていますが、肝心の足元の日本人の意識の中では、まだまだLGBTに対する偏見は根強いのです。
まとめ
いかがでしたか。
LGBT市場は確かに魅力的なマーケットですが、しかしそれにただ表面的なアプローチをするだけで、企業運営としてLGBTを含めたダイバーシティへの取り組みはまだまだ足りない企業が多いと言えます。
そもそも日本人の中にあるLGBTに対する偏見を払拭していかなければ、LGBT市場の過熱ぶりもただのブームで終わってしまうでしょう。この問題を解決するにはまだまだ時間がかかることでしょう。