みなさんは、近所にこんな店の存在を認識していないだろうか。
何年も。下手すると何十年も「閉店」と書かれたチラシや垂れ幕で装飾されており、しかも全く閉店する気配すら見せない。そんな店を。
僕の住んでいる町にも、こういう店がある。
ここは衣料品店なんだけど、まあいつ前を通りがかっても客が入っている様子はない。
ならば本当にそろそろ閉店しそうなんだけど、やっぱり今日も営業している。
商品は代わり映えもなく、日焼けをして色が落ちているブラウスが、目立つ場所のショーケースに陳列されていて、もはや売る気が感じられない。
だったらもう店じまいしてしまえばいいのに……しかし、こういう店って他にもいくつもある。
閉店を掲げつつ、営業を続ける。このような店の主は、一体どういう、考えのもとに営業を継続させているのか。取材してみた。
率直に、閉店しない理由を聞いてみた
早速僕は、前述の常に閉店セールを謳う衣料品店に取材に向かった。そして店主のばあさんに、「どうして長い間閉店セールをしているのか」との質問をぶつけてみた。
返答は以下のとおり。
「閉店って書かれた紙を貼ってると、お客さんが入りやすいんじゃないかと思った。
でも別に客足は変わらなかったんだけど、剥がすのも面倒で」
なるほど、そういうことか。
また、
「正直、半ば惰性で営業を続けていて、店を閉めるにもコストがかかるし」
とも言っている。
ちなみにこの店では、閉店記念価格として、全品50%OFF価格で商品を販売している。
しかしこのご時世、古い衣料品をわざわざ買い求める人なんかいないし、いくら安くしても誰も喜ばないということだ。
たまに在庫がうっとうしくなって、店頭に売り物を「ご自由にお取りください」という立て札と共に放置しているが、それでも一切減らないという。
本格的に需要のない商品しか存在していないというのは、失礼ながらある意味あっぱれだ。
いつから閉店セールをしているのか?
さらに僕は、この店主に「閉店セール自体はいつからやっているのか?」とたずねてみた。
すると店主は「よく覚えてない」と即答をした。
僕の覚えている限り、今住んでいる町に引っ越してきたのは2007年頃のことだったが、その当時には既に閉店セールは行われていた。
とすると、かれこれ9年以上は間違いなく閉店セールをやっているということになる。
大方、実際にはもっと長い間、閉店セールを続けているんだろう。
そうそう、閉店セールと言えばこんな話がある。
大阪・西天満にある「オットー」という靴屋は、20年以上も閉店セールを続けたまま営業しているが、この店、これまでに何度も趣向を変えて閉店セールを行っている。
時事ネタを盛り込んでみたり、景気が悪化すると「今度こそホンマにあかん閉店セール」を開催した。
そんなこんなで永らく話題となっていたが、今年の2月に本当に閉店してしまった。
閉店セールは20年も続くと、現実になるようだ。
閉店セール、それは間もなく見られなくなる光景か
さて、現代ではほしいものはネット通販を経由したり、大型商業施設に出向いたりすれば、大抵手に入ってしまう。
閉店セールを実施している店舗というのは、そこまで大きな規模はなく、個人がやっているようなこじんまりとした店が多い。
それこそ、商店街の一角におさまっているような。
今となっては個人商店そのものが風前のともし火。こういうものは今後10年、20年のうちにさらに減っていくことだろう。悲しいが、これも時代の流れ。仕方がない。
常時閉店セールを実施しているような店だって例に漏れず、だ。
今はまだそこかしこで見ることのできる閉店セールも、これから先、いつまで見られるか……。
(文/松本ミゾレ)