今、副業探偵は密かなブームだ。警察庁『探偵業者の届出状況』によると、平成21年の4,953件から平成25年5,670件と、探偵業者は増加している。
仕事内容は、浮気調査や家出人捜索、盗聴器発見など、泥臭いものも少なくないが、年商5000万円も夢でないと聞く。静かな盛り上がりを見せる副業探偵の魅力について迫りたい。
Z探偵事務所・Y氏との出会い
2012年、秋。駆け出しのフリーライターの私に舞い込んできたのは、Z探偵事務所（以下、Z社）のホームページに掲載する記事執筆と、簡単なホームページ制作の依頼だった。
クライアントのY氏（以下、Y）は、銀座の高級マンションに事務所を構えている。毎月20万円以上の広告費を使うと決め、私に記事やホームページ作成の依頼をしていた。
ある日、Yから「居酒屋にいるから遊びに来い」と誘われた。酒に弱い私だが、Y氏に相当飲まされてベロベロ。理性がなくなった私は、「Yさんって相当バブリーですよね」と率直な思いを話すと、Yはこんな話をしてくれた。
Y「ぶっちゃけ、月収は100万円を割ったことがない。営業も簡単だ。ホームページから問い合わせがあった依頼者と面談し、悩みを解決するような話をして、案件を獲得している。俺からすると、インターネットは最高の広告の場。毎月、100万円近い浮気調査依頼が何件も入ってくるんだぜ？」
どうやら、Z社はインターネット経由の集客が9割を占めるらしい。なかでも案件が多い浮気調査の依頼は、尾行や張り込みといった地道な業務を繰り返す。私は、「仕事が多くなり過ぎると大変じゃないですか？」と、もう少し深く突っ込んでみた。
Y「名前は探偵だけど、今はめったに自分で調査をしない。仕事をもらったあとは、フランチャイズ契約をしている下請け業者に業務を発注している。どう？広野（私）も副業で探偵をやらない？実務が忙しくなるとホームページが作れなくて困るけど、営業だったら大歓迎。俺はもっと稼ぎたいからさ（笑）」
一挙公開！探偵事務所を取り巻く職種と報酬
Y「探偵は管轄の警察署に届出を出すだけでよい。だから、独立開業は簡単だ。広野もすぐに始められるぞ。」
探偵がいかに稼げるかをうれしそうに話す。ここでは、Z社をモデルケースに、報酬および給与、仕事内容を職種別にまとめてみたい。
・営業
カウンセラーとも呼ばれる。報酬は売上の15～20%が相場だ。浮気調査は100万円程度かかるから、1回あたり20万円程度の収入が見込める。お客様に会い、打ち合わせや調査報告をするのが仕事だ。
ちなみに、依頼者は秘密裏に調査依頼をしたいため、電話に出ない探偵事務所へ問い合わせることはない。だから、いつでも電話に出られる必要があるとYは話す。
・調査業務（業務委託型）
自分で営業を獲得したら全額が報酬になる。下請けでも、案件を持ってきた会社の手数料以外がまるまる手元に残る。ただし、報酬から経費を引かれる点は注意したい。
仕事内容は尾行や聞き込みなど。聞き込みは探偵事務所によって異なるようだが、Yは警察OBの知人のネットワークを利用していたそうだ。
・調査業務（アルバイト）
時給は1,000円から3,000円までと幅広い。「時給のみ」「時給＋歩合」など、探偵事務所の給与体系や成果によって大きく異なる。長時間の張り込みや尾行時の自動車の運転など、探偵業務をアシストする仕事が多い。
・情報提供者
通称「情報屋」。Yに聞いた話によると、1案件あたりの報酬は5万円前後だという。探偵そのものではなく、彼らをサポートする。メールアドレスや電話番号、住所など、情報を提供してお金をもらう。個人情報保護がうるさくなった最近は、情報提供者が公の場で仕事できなくなってしまったらしい。
年商5000万円のおこぼれに預かるチャンスだった？
探偵は長時間拘束される業務が少なくない。副業のサラリーマンや他の仕事で拘束時間が増える人には不向きだ。
幸か不幸か、そのときフリーライターの仕事が増えた私は、「お声をかけていただいたのは嬉しいですが、ライター業だけで生きていきたいです。」と、Yの誘いを断った。
数か月後、YもZ社も音信不通になった。風のウワサによると、探偵に飽きて海外へ移住してしまったと聞く。
しかし、Z社のホームページは今でも現存する。もしかすると、毎月数百万円単位の案件があるのだろうか。Yの口ぶりからすると、当時、年商5000万円は稼いでいたと考えられる。電話番と営業だけで稼げるなら、副業探偵のおこぼれにあずかるべきだったか。
（文・広野一揆）